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慰安婦記述の「捏造」めぐる初の名誉毀損訴訟 

原告の敗訴確定

 

慰安婦問題の著作・研究活動をめぐって争われた初めての名誉棄損訴訟「吉見裁判」は、原告の敗訴に終わった。原告は吉見義明中央大教授、被告は桜内文城前衆院議員(いずれも当時)。桜内氏は2013年5月27日、橋下徹大阪市長(当時)が慰安婦問題に関して日本外国特派員協会で講演した際に同席し、質疑のやり取りの中で、「ヒストリーブックスということで吉見さんという方の本を引用されておりましたけれども、これは既にねつ造であるということが、いろんな証拠によって明らかとされております。」と述べた。この発言について、吉見教授は名誉を毀損されたとして、桜内氏を訴えた。

裁判は東京地裁で2016年1月20日に判決があり、吉見教授の損害賠償請求は棄却された。吉見教授は東京高裁に控訴したが、2016年12月15日、東京高裁は控訴を棄却した。吉見教授は最高裁に上告したが、2017年6月29日、最高裁は上告を退け、吉見氏の敗訴が確定した。

 

一審東京地裁の裁判長、原克也氏は判決当時、植村裁判東京訴訟も担当していた。原裁判長の判断は「捏造」という表現の名誉棄損性を軽んじ、被告を免責するものだったので、植村裁判への影響が強く懸念された。吉見弁護団の穂積剛弁護士は、一審判決後の報告会で、判決をきびしく批判し、「看過できないことは、まったく同じこの裁判体(民事33部)が植村隆さんの名誉棄損訴訟を担当していることだ」と訴えた。穂積弁護士は植村弁護団にも提訴時から参加している。

詳細は吉見裁判支援サイト「Yoいっしょん!」 →こちら

 

■東京高裁判決に対する弁護団声明

1  本日、東京高等裁判所第19民事部は、桜内文城前国会議員(旧日本維新の会)の吉見義明中央大学教授に対する名誉毀損事件について、吉見氏の控訴を棄却するという不当な判決を下した。

2  この事件は、橋下徹大阪市長(当時)が、2013年5月27日、「慰安婦」問題に関して日本外国特派員協会で講演した際に、同席していた桜内氏が、「ヒストリーブックスということで吉見さんという方の本を引用されておりましたけれども、これは既にねつ造であるということが、いろんな証拠によって明らかとされております。」と述べたこと(以下「本件発言」という。)が、吉見氏の名誉を毀損したという事件である。

3  本判決は、本件発言中後段の「これは」の意味について、控訴人が主張するように「吉見さんという方の本」と理解することも考えられるが,被控訴人が主張するように日本軍が女性を強制的に性奴隷としたとの事実又は慰安婦について強制性があったとの事実を意味するものと理解することも十分に考えられるとした上、そもそも曖昧な言い回しであることから、何を意味するかが分からない者も少なくないと述べ上で、控訴を棄却した。

4  しかし、一般人の通常の理解を前提とした場合、本件発言は「吉見さんという方の本」であるということは明瞭である。しかも,本判決は様々な理解が可能であるとする根拠 についてひとことも述べていない。控訴人は、「これは」について「吉見さんという方の本」を指すことを示す証拠をいくつも提出しているのに対し、被控訴人が主張する事実を認定する証拠は全く出されていない。

  また、仮に本判決が述べるとおり、「これは」についていくつかの理解が可能であるとしても、少なくとも控訴人が主張している理解も考えられるとしている以上,その点において名誉毀損が認められてしかるべきである。
   
さらに、地裁判決は社会的評価の低下を認めているのに対し、本判決はそれすら認めておらずさらに後退しているのであり、断じて容認することはできない。

  歴史研究者にとり研究成果がねつ造とされることは、研究者生命を抹殺させるに等しい最大限の侮辱であり、社会的評価の毀損であることは容易に理解できるものであり、この点からも本件判決の不当性は明らかである。

5  私たちは、不当な本件判決に強く抗議するとともに、速やかに上告し、吉見氏の名誉回復のために最後まで戦う決意を表明するものである。

 

2016年12月15日、吉見義明氏名誉毀損訴訟弁護団

 

 

判決が確定した後に、弁護団の一員である穂積剛弁護士は、同氏が所属する「みどり共同法律事務所」(東京・新宿区)のホームページに論考を寄稿しています。こちら

  

 


吉見教授のあいさつ(一審判決後の報告集会で、IWJによるハイライト動画)