裁判経過と判決 最高裁の決定

 

最高裁決定通知書

 東京訴訟 PDF

 札幌訴訟 PDF

 

 

以下の記事の内容

1 東京訴訟上告棄却と抗議声明

2 札幌訴訟上告棄却と抗議声明

  

1 東京訴訟 上告を棄却

 

上告から1年後、最高裁第一小法廷(小林裕裁判長)は2021年3月11日付で上告を棄却した。これにより植村氏の敗訴は確定した。

植村氏と弁護団は3月12日、東京の司法記者クラブで記者会見を開き、次の声明を発表した。

 

植村隆氏の声明 

本日、最高裁の決定を受け取りました。これで、西岡力氏らを名誉毀損で訴えた植村裁判東京訴訟での私の敗訴が確定しました。極めて不当な決定です。最高裁は、植村裁判札幌訴訟(対櫻井よしこ氏裁判)に引き続き、歴史に汚点を残す司法判断を再び下しました。

西岡氏は『週刊文春』記事の談話で、私が1991年8月に朝日新聞に書いた元日本軍「慰安婦」金学順さんの証言記事を「捏造」と決めつけるなど、私に対する「捏造」攻撃を繰り返してきました。西岡氏は談話で、金学順さんが「親に身売りされて慰安婦になったと訴状に書き、韓国紙の取材にもそう答えている。植村氏はそうした事実に触れ」ていないと述べましたが、それが事実ではないことが東京地裁の被告本人尋問で明らかになりました。西岡氏は虚偽の根拠に基づいて、私を攻撃していたのです。記事を「捏造」と断言されるのは、ジャーナリストにとって「死刑」宣告のようなものです。しかし、西岡氏は私に直接取材すらしていませんでした。

 

この西岡氏のフェイク言説が、すさまじい「植村捏造バッシング」を引き起こしました。多数の人々がバッシングに加わり、その結果、私は内定していた大学の教授職を失いました。当時、高校生だった私の娘の顔と実名が悪質なコメントとともにツイッターやインターネットなどにさらされ、「娘を殺す」という脅迫状まで送られてきました。私が非常勤として勤務していた大学に脅迫電話をかけた犯人の一人は逮捕され、罰金刑を受けました。娘をツイッターで誹謗中傷した一人は裁判で責任が問われ、賠償金を支払いました。しかし、「植村バッシング」を引き起こした張本人である西岡氏の責任が全く問われていません。異常な司法判断と言わざるを得ません。

 

また西岡氏は、私が1991年12月に書いた記事について、著書などで、金学順さんがキーセンに売られたことを書かなかったから「悪質かつ重大な捏造」だと決めつけました。私たちは、この主張を打ち崩す新たな証拠を発見し、東京高裁に提出しました。日本政府を相手取った訴訟を準備していた金さんが初めて弁護団の聞き取り調査に応じた1991年11月25日録音のテープです。ここで金さんは「キーセン」について一言も触れていません。私は記事の前文で「弁護士らの元慰安婦からの聞き取り調査に同行し、金さんから詳しい話を聞いた。恨の半生を語るその証言テープを再現する」と書きました。証言テープで触れられていない内容を記事に書くはずがないのです。ところが、高裁判決はその新証拠を正当に評価しませんでした。

 

こうした一審・二審の判断を最高裁が追認したのです。西岡氏は裁判期間中の2016年5月23日付で、櫻井よしこ氏が理事長をつとめる「国家基本問題研究所」の「ろんだん」に、こう書いています。「私は1991年以来、慰安婦問題での論争に加わってきた。安倍晋三現総理大臣や櫻井よしこ本研究所理事長らも古くからの同志だ」。つまり私は「アベ友」相手の裁判で相次いで敗れたのです。昨年11月19日に安倍晋三前首相は、自身のフェイスブックに札幌訴訟の最高裁決定を報じた産経新聞の記事を引用し、20日未明には「植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定したという事ですね」と書き込みました。しかし判決に私の記事を「捏造」と認めた記述はありません。これは完全なフェイク情報です。私の抗議で、安倍氏はこのコメントを削除しました。私の記事が「捏造」ではないことを改めて証明する機会になりました。同時に私は巨大な敵と闘っているということを改めて実感しました。

 

櫻井氏は自分の文章に、金学順さんが1991年提訴した際の訴状について「14歳の時、継父によって40円で売られたと書かれている」と書きました。しかし金さんの訴状にそのような記述はありません。今回の札幌訴訟で私の指摘を受けて、自分の記述が間違っていたことを認め、雑誌WiLLと産経新聞に訂正を出しました。

裁判の結果は、残念ながら敗訴となりましたが、金学順さんが元「慰安婦」として勇気を持って名乗り出たことをいち早く伝えた私の記事の歴史的意義は、西岡氏や櫻井氏らの攻撃でも損なわれていないことが、改めて確認できました。今回の裁判結果にひるむことなく、故金学順さんら元「慰安婦」をはじめとする戦時の性暴力被害者たちの名誉や尊厳を守るため、「アベ友」らによるフェイク情報の追及を続けていきたいと思います。    

 

上告棄却決定を受けての弁護団声明 

最高裁第一小法廷は、3月11日付けで、植村氏の上告を棄却し、上告受理申立を不受理とする決定を下した。これにより、元朝日新聞記者植村隆氏が、株式会社文藝春秋と西岡力氏を被告として提訴した名誉毀損に基づく損害賠償等請求訴訟(提訴は2015年1月付け)が、植村氏の請求を退ける形で確定した。

 

植村氏は1991年執筆の朝日新聞記事において、日本軍従軍慰安婦として最初に名乗りをあげた金学順氏の証言を報道した。西岡氏は植村氏の記事について、「捏造」などと決めつけ、繰り返し攻撃してきたものである。植村氏は、西岡氏とその影響を受けた人々らの攻撃により、大学教授の職を追われ、家族が脅迫を受ける等の深刻な被害を受けてきた。植村氏は、自己の名誉と家族の安全、そして慰安婦として名乗りを上げた金学順氏の尊厳を守るため訴訟に踏み切らざるを得なかったのである。

植村氏の訴えを退けた東京地裁判決は、植村記事中「女子挺身隊の名で」という記載は「強制連行を意味する」との前提で、植村氏は意図的に事実と異なる記事を書いたと認定した。しかし、植村氏において強制連行をでっち上げようという悪しき意図があったとすれば、「だまされて慰安婦にされた」等と書くわけがない。かかる不当な認定を追認した最高裁判決は、もはや人権の砦としての職責を放棄したというほかなく、強い怒りを禁じ得ない。

 

他方、東京高裁判決においては、植村氏が、金氏が妓生に身売りされたとの経歴を知っていたのにあえてこれを記事にしなかった事実や、植村氏が義母の裁判を有利にするために意図的に事実と異なる記事を書いたとの事実について、真実性が否定されている。この意義は極めて大きい。

金学順氏は、日本軍により17歳で従軍慰安婦にさせられたという被害を訴えた。これについて、金氏は妓生に身売りされて慰安婦になったとか、植村氏はそれを知っていながら隠した等の右派による歴史修正的な言説が喧伝されてきた。西岡氏は「身売り」説の中心にいたのである。本判決により「身売り」説が真実に反するとの判決が確定したのであるから、以後、同様の虚偽宣伝をくり返すことは許されない。

未だインターネット等においては、西岡氏と同趣旨の虚構に基づいて植村氏を攻撃するものが散見される。弁護団は、今後も植村氏の名誉を守り、慰安婦問題に関する歴史の真実と正義を守るために活動を続ける所存である。

2021年3月12日

 

2 札幌訴訟 最高裁が上告を棄却

 

最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)は2020年11月18日付で札幌訴訟の上告を棄却した。これにより植村氏の敗訴は確定した。

植村裁判を支える市民の会と植村弁護団は、次の声明を出した。

 

  植村裁判を支える市民の会 「歴史を裏切る判決許さず」  

 「国賊」「売国奴」。過去を直視する言論・報道が暴力をも示唆する卑劣なバッシングにさらされる。そのような社会であってはならない――。植村裁判支援に結集した市民が共有した思いである。植村隆氏の朝日新聞記事を根拠なく「捏造」と断じ、バッシングを呼び起こした櫻井よしこ氏らに名誉毀損の法的責任を求めた札幌訴訟は18日、最高裁の上告棄却によって一区切りがついた。結果は「敗訴」でも、私たち市民の思いはいささかも揺らいでいない。

 

「慰安婦」として旧日本軍によって屈辱的な戦時性暴力にさらされた朝鮮人女性、金学順さん(キム・ハクスン、故人)の無念を伝える記事であった。櫻井氏らの言説は、卑劣な集団的セカンドレイプと言うべき社会現象を引き起こしたにもかかわらず、「公益性」「真実相当性」を理由に免責した判決は、旧日本軍に慰安婦とされた金さんはじめ多くの女性たちの魂の叫びをもかき消した。

判決は櫻井氏らの主張を「真実」と認定せず、植村氏の社会的評価を低下させる名誉毀損に当たるとした。免責の理屈はどうあれ、記事を「捏造」と断じた根拠を櫻井氏らは全く示すことができなかった。櫻井氏がジャーリストを自称するのであれば、「捏造記者」の汚名は櫻井氏こそが引き受けるべきであり、勝ち誇ることは許されない。

 

旧日本軍慰安婦問題をめぐる事実に基づかない櫻井氏の主張を、「真実相当性」のハードルを下げることで、札幌地裁、同高裁、そして最高裁は容認した。このことが「司法のお墨付き」と解され、歴史的事実を無視した誹謗中傷を引き起こさないかと私たちは恐れる。すでにその兆候が見られる。

こうした禍根を将来に残さないためにも、歴史修正主義との闘いを継続する責任を私たち市民は負っている。重い責任ではあるが、あるべき社会を目指す新たな一歩をあすから踏み出す決意を表明したい。

裁判支援を通して多くの出会いが生まれた。2015年2月の提訴以来、札幌での報告集会は17回を数える。多彩な講師を迎え、金学順さんの生前の肉声にも触れた。戦時性暴力の加害責任と 私たちの社会はどのように向き合っていくべきか、学びを深めたことは闘いが獲得した成果である。植村氏は国内外を講演行脚して支援の輪を広げ、カンパは世界中から寄せられた。この6年近くに及ぶご支援に心から感謝しつつ、残る東京訴訟の最高裁決定を注視したい。                                   

2020年11月26日

 

  最高裁判断を踏まえて 植村訴訟札幌弁護団 

植村隆氏が櫻井よし子氏らを相手取った名誉毀損訴訟で、最高裁判所第2小法廷は去る11月18日付で上告棄却・上告不受理決定を出しました。

これによって、櫻井氏が植村氏の記事を「捏造」と書いたことが名誉棄損に当たることを認めつつも、「捏造」記事と信じたことに相当の理由があるとして櫻井氏を免責した札幌地裁判決(2018年11月9日付)が確定しました。

この札幌地裁判決は、「従軍慰安婦とは、太平洋戦争終結前の公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性などの呼称のひとつ」などと、河野談話をはじめとする政府見解にも反する特異な歴史観をあからさまに示した上で、櫻井氏による名誉毀損行為を安易に免責した不当判決にほかなりません。札幌高裁判決もこれを追認しました。

最高裁がこれまで幾多の判断で営々と積み上げてきた名誉毀損の免責法理を正当に適用せずに、植村氏への直接取材もしないなど確実な資料・根拠もなく「捏造」と決めつけた櫻井氏を免責する不当判決を追認してしまったことに、強い憤りを覚えるものです。

とはいえ、札幌訴訟の一連の司法判断は、「捏造」と決めつけた櫻井氏の表現行為に真実性を認めたものではなく、むしろ、札幌地裁判決でも「継父によって人身売買され慰安婦にさせられた」という櫻井氏の表現が真実であると認めることは困難である旨を認定しています。

また、櫻井氏自身も、元慰安婦の1人が日本政府を相手取った訴状には「14歳の時、継父によって40円で売られたと書かれている」と真実に反することを述べていたことを被告本人尋問で認め、産経新聞とWiLLに訂正記事を出さざるを得なくなりました。

何よりも、植村氏が敢然と訴訟に立ち上がったことによって、櫻井氏による一連の「捏造」表現を契機とした植村氏への激しいバッシング、同氏やその家族あるいは勤務先だった北星学園大学に対する脅迫行為を止めることができました。

私たちは、こうした成果を確信するとともに、植村氏の訴訟をこれまで支援してくださった皆さまに対し、心からの感謝を申し上げます。

そして、植村氏の東京訴訟の勝利のために引き続き連帯を強めることを決意するとともに、二度とこのような人権侵害が繰り返されることのないよう、取り組みを続けていく所存です。

 

2020年11月26日