判決を批判する 抗議声明

 

東京地裁判決=

弁護団声明

原告声明

植村さんを支える仲間たち呼びかけ  

東京高裁判決=

弁護団声明

控訴人声明

植村裁判を支える市民の会  

最高裁決定=

弁護団声明

植村隆の声明

日本ジャーナリスト会議声明

メディア総合研究所声明

日本マスコミ文化情報労組会議声明

 

札幌地裁判決=

植村裁判を支える市民の会声明

日本ジャーナリスト会議声明

弁護団声明  

札幌高裁判決=

植村裁判を支える市民の会声明

弁護団声明  

最高裁決定=

植村裁判を支える市民の会声明

弁護団声明

 

 

東京地裁判決 弁護団声明  2019年6月26日

 

1 本日、東京地方裁判所民事第32部(原克也裁判長)は、元朝日新聞記者植村隆氏が麗澤大学客員教授西岡力氏、週刊誌「週刊文春」の発行元である株式会社文藝春秋に対して、名誉毀損を理由として慰謝料の支払いなど名誉回復を求めた訴訟で、原告の請求を棄却する不当判決を言い渡した。

本件は、1991年に元従軍慰安婦の証言を紹介した記事を執筆した植村氏に対して、西岡氏が「事実を捏造して記事を書いた」等と執拗に誹謗をくり返し、そのことにより植村氏にバッシングが集中し、植村氏の家族の命までが危険に晒されたため、やむを得ず、2015年1月、法的手段に訴えたという事案である。

2 東京地裁の判決は、西岡氏の「捏造」との表現が事実の摘示であることを認め、これにより植村氏の名誉が毀損されたことを認めた。しかし、判決は、西岡氏の、植村氏が意図的に妓生の経歴に触れなかったとする記載や、義母の裁判を有利にする意図があった等とする記載については、「推論として一定の合理性がある」等として相当性を認め、また、植村氏が、金学順氏が強制連行されたとの、事実と異なる記事を書いたとの記載については、植村氏に「だまされて慰安婦にされたとの認識があった」ことを理由に真実性を認め免責した。

しかし、相当性の抗弁により免責を認めるためには、その報道された事実を基礎づける確実な根拠・資料が必要であるというのが確立した判例である。本件判決は、そのような根拠・資料がなく、とりわけ、植村氏が嘘を嘘と知りながらあえて書いたか否か、本人の認識について全く取材せず、「捏造」という強い表現を用いたことを免責しており、従来の判例基準から大きく逸脱したものである。また、金学順氏は自ら「私は挺身隊だった」と述べており、また、当初はだまされて中国に行ったが、最終的には日本軍に強制連行によって慰安婦にされたと述べていた。だまされて慰安婦にされたことと強制連行の被害者であることはなんら矛盾するものではない。裁判所の認定は真実をねじ曲げ従軍慰安婦制度の被害者の尊厳をも踏みにじるものである。 

3 私たち弁護団は、審理において金学順氏が妓生学校にいたことを殊更にあげつらう西岡氏の差別的な言説の不当性を主張した。さらに、西岡氏への本人尋問では、西岡氏自身が、金学順氏の証言を創作して自説を補強するというおよそ学問の名に値しない行動を取っていたことも明らかになった。また、植村氏にバッシングが集中し、植村氏の家族の命までが危険に晒された被害状況も詳細に立証した。

本日の判決は、弁護団のこれらの立証を一顧だにしないものであり、「慰安婦問題は解決済み」という現政権の姿勢を忖度した、政治的判決だといわざるを得ない。

原裁判官は、昨年11月に一度本件審理を結審した後、本年2月に突如弁論を再開し「朝日新聞第三者委員会報告書」を証拠採用した。この時採用した「朝日新聞第三者委員会報告書」も判決ではふんだんに援用されている。つまり、原克也裁判長は当初より植村氏を敗訴させることを予定していたが、植村氏を敗訴させるだけの証拠が不足していたことからあえて弁論を再開し、被告らに有利な証拠だけを採用したとしか思えない。要するに、本件判決は、最初から結論を決められていたものであって、予断に基づいてなされた判決であり、近代司法の根本原則を踏みにじるものですらある。

4 以上のとおり、本日の判決は現政権に忖度した言語道断な不当判決であり、私たち弁護団は、到底受け入れることはできない。弁護団はこの不当判決に直ちに控訴し、植村氏の名誉を回復し、従軍慰安婦制度の全ての被害者の尊厳を回復するため全力で闘う決意である。                    

2019年6月26日

植村訴訟東京弁護団



東京地裁判決 原告声明   2019年6月26日

 

元東京基督教大学教授の西岡力氏と週刊文春発行元の文藝春秋社を名誉毀損で訴えた裁判で本日、東京地裁の原克也裁判長が不当な判決を下しました。判決では、私の記事を「捏造」とする西岡氏の言説及び私を糾弾する週刊文春の記事により、私の社会的評価が低下したと、名誉棄損を認めました。しかし、私が捏造したと西岡氏が信じたことには理由があるなどとして、西岡氏らを免責しました。西岡氏は私に取材もせずに、「捏造」記事を書いたと決めつけ、さらには言説の根拠となる証拠を改ざんまでしていたことが、法廷でも明らかになっています。裁判所はそうした事実を知りながら、私の意図を曲解して一部の真実性を認め、真実相当性の認定のハードルも地面まで下げて、西岡氏らの責任を不問にしました。こんな判決がまかり通れば、どんなフェイクニュースでも、書いた側の責任が免除されることになります。非常に危険な司法判断です。決して許せません。

この間の審理では、西岡氏の週刊文春の談話がフェイクだということが明らかになりました。西岡氏は虚偽の根拠に基づいて、私の記事を「捏造」とレッテル貼りしていたのです。事実を大切にするジャーナリズムの世界では、西岡氏は完敗していました。しかし、今回の判決では、西岡氏のフェイクが全く不問にされています。

週刊文春に掲載された西岡氏の談話や同誌の報道は、すさまじい「植村捏造バッシング」を引き起こしました。私は転職先を失い、「娘を殺す」と脅迫されるなど塗炭の苦しみに直面しました。しかし、判決では文藝春秋は問題提起をしただけで、バッシングを扇動するものとは認められず、不法行為は成立しないと断じています。ではなぜ、「植村捏造バッシング」が起きたのでしょうか。「植村捏造バッシング」は幻ではないのです。

昨年11月9日、西岡氏と共に私の記事を「捏造」と言いふらしてきた、櫻井よしこ氏の責任を免除する不当な判決が札幌地裁で下されました。西岡氏はこうも言っています。「私は1991年以来、慰安婦問題での論争に加わってきた。安倍晋三現総理大臣や櫻井よしこ本研究所理事長らも古くからの同志だ」(国家基本問題研究所ろんだん)。今回もまた「アベ友」を免責する不当判決が出ました。しかし、私はひるむことなく、言論人として堂々と闘いを続けていきたいと思います。この不当判決を高等裁判所で覆すべく、頑張りたいと思います。 

2019年6月26日 

元朝日新聞記者・韓国カトリック大学客員教授・週刊金曜日発行人

植村隆

 

東京地裁判決 植村さんを支える仲間たち 呼びかけ  2019年7月6日

 

 「私は捏造記者ではない」と植村隆さんが西岡力氏や文藝春秋社を訴えていた訴訟で、東京地裁は6月26日、植村さんの訴えを退けました。植村さんは7月9日、東京高裁に控訴します。

判決は、西岡氏が植村さんの名誉を棄損したことは認めつつ、「推論として一定の合理性があった」などと免責しています。櫻井よし子氏らを免責した札幌地裁の判決と同じです。しかも、朝日新聞社と植村さんが2014年8月に検証記事を出すまで西岡氏の批判に対する反論や説明をしてこなかったとして、西岡氏が「自身の主張が真実であると信じるのはもっともなこと」と繰り返しています。

一方で、植村さんについては「女子挺身隊として(金学順さんが)日本軍によって戦場に強制連行された、という事実と異なる記事を書いた」と決めつけて、西岡氏の主張の一部に「真実性」まで認めています。「日本軍による強制連行」という印象を強めるために意図的に言葉を選んで書いた、と認定しているのです。

植村さんの記事が掲載された91年当時は、他紙もみな「慰安婦」の説明として「女子挺身隊として強制連行された」などと書いていました。判決の言う通りなら、当時の記事はすべて「捏造」だったことになります。なんと強引な理屈でしょうか。

また、争点でなかった歴史認識でも一方的に「修正主義」に踏み込んでいます。札幌判決にならって「慰安婦ないし従軍慰安婦とは、太平洋戦争終結前の公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性などの呼称の一つ」と認定しているのです。

金学順さんは生前、「日本軍に連行された」と繰り返し訴えていました。その被害者を「公娼制度の下で売春に従事していた女性」と決めつけているのです。職を奪われ家族も脅迫された植村さんの被害を無視しただけでなく、「元慰安婦」までセカンド・レイプする悪質な判決です。

司法も歪める異常な流れを断ち切ろうと、今度は東京高裁でのたたかいが始まります。

植村裁判が目指しているのは、元記者の名誉の回復だけではありません。歴史をねじ曲げて人々の憎悪をあおりたてる巨大な勢力に抗して、「慰安婦」被害者たちが残した声を正確に伝えていくことでもあります。

今後も皆さまのお力添えをよろしくお願いいたします。

2019年7月6日

「植村さんを支える仲間たち」世話人 水野孝昭

 

 

東京高裁判決 弁護団声明  2020年3月3日

 

元朝日新聞記者植村隆氏が、元「慰安婦」金学順氏の証言に関する91年の新聞記事を巡って、株式会社文藝春秋と西岡力氏を訴えた訴訟の控訴審で、東京高等裁判所は、本日、植村隆氏の控訴を棄却する判決を下した。西岡氏らの論文や「週刊文春」の記事が名誉毀損に当たることは認めつつ真実性・真実相当性の抗弁を認めた東京地裁判決を、ほとんどまともな検討を経ることなく追認した、極めて不当な判決である。

西岡氏らは、植村記事について「妓生にいたという金学順氏の経歴を書いてないから捏造だ」という趣旨を主張してきた。植村氏は、控訴審において、91年12月の記事の基となった、金学順氏の証言テープを証拠提出した。証言テープの中には妓生についての証言はなかった。証言者が証言していないことを記事に書かないことが「捏造」になるはずがない。ところが、控訴審は、当該証言テープが金学順氏の証言全てを記録したものとは認めがたい等と信じがたい言いがかりをつけてその証拠力を否定した。そのような主張は相手方からもなされておらず、テープの成立過程を立証するために申請した本人尋問も却下されている。高裁の判断は、弁護団から反論の機会を奪った不意打ち認定であり、到底許されない。

判決は、8月の植村記事中「女子挺身隊の名で」という記載は「強制連行を意味する」との前提で、植村氏は意図的に事実と異なる記事を書いたとの一審の認定を維持している。しかし、そもそも、8月の記事には、はっきりと「だまされて慰安婦にされた」と書いてあるではないか。植村氏において強制連行をでっち上げようという悪しき意図があったとすれば、「だまされて慰安婦にされた」等と書くわけがない。本件判決の認定は常識をはるかに逸脱している。

以上からすれば、本件判決は結論先にありきの、あまりに杜撰な判決であると批判せざるを得ない。

他方、高裁判決は、①植村氏が、金氏の、キーセンに身売りされたという経歴を知っていたのにあえてこれを記事にしなかった事実、②植村氏が義母の裁判を有利にするために意図的に事実と異なる記事を書いたとの事実については、いずれも真実と認めることはできないとした。これは控訴審の大きな成果であり、植村氏の名誉が一部であれ回復した。

弁護団は、本件審理の過程で、植村氏の記事が捏造ではないことを完全に立証し、同氏の名誉を回復すると同時に、元「慰安婦」の尊厳回復の運動を力強く支えたと信じる。これら、1審、2審の成果を踏まえ、最高裁で戦い抜く所存である。

2020年3月3日

植村隆弁護団

 

東京高裁判決 控訴人声明 2020年3月3日

 

本日、東京高裁で、西岡力氏らを名誉毀損で訴えた植村東京訴訟の控訴審判決が言い渡されました。一審に続いて、私は敗訴しました。極めて不当な判決だと思います。

西岡氏は2014年2月6日号の『週刊文春』の記事で、私が書いた元日本軍「慰安婦」金学順さんの証言記事Aを「捏造」と決めつけるなど、私に対する「捏造」攻撃を繰り返してきました。これがきっかけで、激しい「植村捏造バッシング」が起きました。私は内定していた大学の教授職を失い、「娘を殺す」という脅迫状も送られてきました。

私は2015年1月に西岡氏らを訴えました。自分の名誉、家族の安全、勤務先の学生らの安全、そして、元「慰安婦」の金さんの尊厳を守るための闘いでした。

本日の高裁判決では、西岡氏が、私の記事を「捏造」と主張している三つの点の二つについて、真実とは認めない一方で、信じるには「相当な理由」があるとして、西岡氏を免責しました。西岡氏は私に直接取材をしておりません。しかも、西岡氏は私の記事を捏造記事と断定する際にも、決定的な誤りを犯していました。それが、一審では明らかになりました。

この文春の記事を見てください。「このとき名乗り出た女性は親に身売りされて慰安婦になったと訴状に書き、韓国紙の取材にもそう答えている」とあります。しかし訴状でも、韓国紙の取材にも、金学順さんは、そう答えてなかったのです。「捏造」批判の前提自体が、間違っていたのです。

また西岡氏は、私の記事Bについて、著書『よくわかる慰安婦問題』で、金学順さんがキーセンに売られたことを書かなかったから、「悪質かつ重大な捏造」だと決めつけました。私たちは、この言説を打ち崩す、新たな証拠を発見し、高裁に提出しました。日本政府を相手取った訴訟を準備していた金さんが初めて弁護団の聞き取り調査に応じた1991年11月25日録音のテープです。ここで金さんは「キーセン」について一言も言っていませんでした。私はこのテープに基づき記事Bを書きました。

ところが、高裁判決は、その新証拠を正当に評価しませんでした。そして、西岡氏の決定的な誤りも見過ごしています。結論ありきの判決だと思います。

「植村捏造バッシング」の張本人は、西岡氏です。彼の言説を受けて、大勢の人がバッシングに加わりました。私の勤務していた大学を電話で脅迫した男が逮捕され、罰金刑を受けました。私の娘をツイッターで誹謗中傷した会社員はその責任が問われ、賠償金を支払い続けています。しかし、本日の判決では、その張本人が免罪されたのです。

この問題は植村だけの問題ではありません。あすは記者の皆さんに降りかかるかもしれないのです。この不当判決を放置する訳にはいきません。このままでは、フェイクニュースを流し放題という大変な時代になります。即刻上告し、最高裁で逆転判決を目指したいと思います。

2020年3月3日、植村隆

 

 

最高裁決定 弁護団声明 

上告棄却決定を受けて 2021年3月11日

 

最高裁第一小法廷は、3月11日付けで、植村氏の上告を棄却し、上告受理申立を不受理とする決定を下した。これにより、元朝日新聞記者植村隆氏が、株式会社文藝春秋と西岡力氏を被告として提訴した名誉毀損に基づく損害賠償等請求訴訟(提訴は2015年1月付け)が、植村氏の請求を退ける形で確定した。

植村氏は1991年執筆の朝日新聞記事において、日本軍従軍慰安婦として最初に名乗りをあげた金学順氏の証言を報道した。西岡氏は植村氏の記事について、「捏造」などと決めつけ、繰り返し攻撃してきたものである。植村氏は、西岡氏とその影響を受けた人々らの攻撃により、大学教授の職を追われ、家族が脅迫を受ける等の深刻な被害を受けてきた。植村氏は、自己の名誉と家族の安全、そして慰安婦として名乗りを上げた金学順氏の尊厳を守るため訴訟に踏み切らざるを得なかったのである。

植村氏の訴えを退けた東京地裁判決は、植村記事中「女子挺身隊の名で」という記載は「強制連行を意味する」との前提で、植村氏は意図的に事実と異なる記事を書いたと認定した。しかし、植村氏において強制連行をでっち上げようという悪しき意図があったとすれば、「だまされて慰安婦にされた」等と書くわけがない。かかる不当な認定を追認した最高裁判決は、もはや人権の砦としての職責を放棄したというほかなく、強い怒りを禁じ得ない。

他方、東京高裁判決においては、植村氏が、金氏が妓生に身売りされたとの経歴を知っていたのにあえてこれを記事にしなかった事実や、植村氏が義母の裁判を有利にするために意図的に事実と異なる記事を書いたとの事実について、真実性が否定されている。この意義は極めて大きい。

金学順氏は、日本軍により17歳で従軍慰安婦にさせられたという被害を訴えた。これについて、金氏は妓生に身売りされて慰安婦になったとか、植村氏はそれを知っていながら隠した等の右派による歴史修正的な言説が喧伝されてきた。西岡氏は「身売り」説の中心にいたのである。本判決により「身売り」説が真実に反するとの判決が確定したのであるから、以後、同様の虚偽宣伝をくり返すことは許されない。

未だインターネット等においては、西岡氏と同趣旨の虚構に基づいて植村氏を攻撃するものが散見される。弁護団は、今後も植村氏の名誉を守り、慰安婦問題に関する歴史の真実と正義を守るために活動を続ける所存である。

2021年3月12日、植村隆弁護団

 

 

最高裁決定  植村隆氏の声明  2021年3月11日

 

本日、最高裁の決定を受け取りました。これで、西岡力氏らを名誉毀損で訴えた植村裁判東京訴訟での私の敗訴が確定しました。極めて不当な決定です。最高裁は、植村裁判札幌訴訟(対櫻井よしこ氏裁判)に引き続き、歴史に汚点を残す司法判断を再び下しました。

西岡氏は『週刊文春』記事の談話で、私が1991年8月に朝日新聞に書いた元日本軍「慰安婦」金学順さんの証言記事を「捏造」と決めつけるなど、私に対する「捏造」攻撃を繰り返してきました。西岡氏は談話で、金学順さんが「親に身売りされて慰安婦になったと訴状に書き、韓国紙の取材にもそう答えている。植村氏はそうした事実に触れ」ていないと述べましたが、それが事実ではないことが東京地裁の被告本人尋問で明らかになりました。西岡氏は虚偽の根拠に基づいて、私を攻撃していたのです。記事を「捏造」と断言されるのは、ジャーナリストにとって「死刑」宣告のようなものです。しかし、西岡氏は私に直接取材すらしていませんでした。

この西岡氏のフェイク言説が、すさまじい「植村捏造バッシング」を引き起こしました。多数の人々がバッシングに加わり、その結果、私は内定していた大学の教授職を失いました。当時、高校生だった私の娘の顔と実名が悪質なコメントとともにツイッターやインターネットなどにさらされ、「娘を殺す」という脅迫状まで送られてきました。私が非常勤として勤務していた大学に脅迫電話をかけた犯人の一人は逮捕され、罰金刑を受けました。娘をツイッターで誹謗中傷した一人は裁判で責任が問われ、賠償金を支払いました。しかし、「植村バッシング」を引き起こした張本人である西岡氏の責任が全く問われていません。異常な司法判断と言わざるを得ません。

また西岡氏は、私が1991年12月に書いた記事について、著書などで、金学順さんがキーセンに売られたことを書かなかったから「悪質かつ重大な捏造」だと決めつけました。私たちは、この主張を打ち崩す新たな証拠を発見し、東京高裁に提出しました。日本政府を相手取った訴訟を準備していた金さんが初めて弁護団の聞き取り調査に応じた1991年11月25日録音のテープです。ここで金さんは「キーセン」について一言も触れていません。私は記事の前文で「弁護士らの元慰安婦からの聞き取り調査に同行し、金さんから詳しい話を聞いた。恨の半生を語るその証言テープを再現する」と書きました。証言テープで触れられていない内容を記事に書くはずがないのです。ところが、高裁判決はその新証拠を正当に評価しませんでした。

こうした一審・二審の判断を最高裁が追認したのです。西岡氏は裁判期間中の2016年5月23日付で、櫻井よしこ氏が理事長をつとめる「国家基本問題研究所」の「ろんだん」に、こう書いています。「私は1991年以来、慰安婦問題での論争に加わってきた。安倍晋三現総理大臣や櫻井よしこ本研究所理事長らも古くからの同志だ」。つまり私は「アベ友」相手の裁判で相次いで敗れたのです。昨年11月19日に安倍晋三前首相は、自身のフェイスブックに札幌訴訟の最高裁決定を報じた産経新聞の記事を引用し、20日未明には「植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定したという事ですね」と書き込みました。しかし判決に私の記事を「捏造」と認めた記述はありません。これは完全なフェイク情報です。私の抗議で、安倍氏はこのコメントを削除しました。私の記事が「捏造」ではないことを改めて証明する機会になりました。同時に私は巨大な敵と闘っているということを改めて実感しました。

櫻井氏は自分の文章に、金学順さんが1991年提訴した際の訴状について「14歳の時、継父によって40円で売られたと書かれている」と書きました。しかし金さんの訴状にそのような記述はありません。今回の札幌訴訟で私の指摘を受けて、自分の記述が間違っていたことを認め、雑誌WiLLと産経新聞に訂正を出しました。裁判の結果は、残念ながら敗訴となりましたが、金学順さんが元「慰安婦」として勇気を持って名乗り出たことをいち早く伝えた私の記事の歴史的意義は、西岡氏や櫻井氏らの攻撃でも損なわれていないことが、改めて確認できました。今回の裁判結果にひるむことなく、故金学順さんら元「慰安婦」をはじめとする戦時の性暴力被害者たちの名誉や尊厳を守るため、「アベ友」らによるフェイク情報の追及を続けていきたいと思います。

2021年3月12日、元朝日新聞記者 植村隆

 

  

最高裁決定 日本ジャーナリスト会議 声明 2021年3月11日

右派論客の「いいかげんさ」明らかにした植村裁判

 

2015年の提訴以来、6年にわたった元朝日新聞記者・植村隆氏による名誉棄損訴訟は、言論界の歴史に刻まれるだろう。旧日本軍による朝鮮人女性らに対する人権侵害、従軍慰安婦の問題を正面から取り上げ、その存在を否定する「右派の論客」といわれる人たちの「いいかげんな姿」を法廷の内外で明らかにしたからだ。

札幌訴訟で被告となった櫻井よしこ氏は、元従軍慰安婦の金学順さんが日本政府を相手に起こした裁判にからみ、「訴状には、14 歳のとき、継父によって40 円で売られたこと(中略)などが書かれている」と様々な出版物で主張した。そのうえで「40円」などについて新聞記事で触れなかった植村氏を「捏造」記者と中傷した。

しかし現実の訴状にその記述はない。フリーランスライターが金学順さんを取材して書いた月刊誌の記事を読んで、実は櫻井氏は「40 円」を知ったのだという。直接の当事者取材をせず、第次資料の雑誌記事をそのまま信用し、それを「訴状に書かれている」と言って間違いを犯す。その安易さ、軽さに私たちは驚く。少なくとも植村氏は金さんと直接会い、話を聞いている。ジャーナリストにとって、この差は大きい。

東京訴訟での被告、西岡力氏も信じがたい行為に及んでいた。韓国ハンギョレ新聞の金さんに関する記事を著書で引用しながら、末尾に「私は、40円で売られて、キーセンの修業を何年かして、その後日本の軍隊のあるところに行きました」と、同紙に書いていない文章を付け足していたのだ。記事の改ざんである。

金学順さんはあくまで商行為で軍に近づいて慰安婦になったと一方的に想像する両氏は、「40円」を強調するため、おかしな記述をした。だが実際の金さんは中国で、日本軍人によりトラックで慰安所に連行され、将校級の男からいきなりレイプされた。その悲痛な証言は無視されたままだ。

植村氏を「捏造記者」と櫻井氏、西岡氏が新聞や出版物で中傷した結果、激しい植村バッシングが起きた。ネット上に家族がさらされ、殺人脅迫にまで至った。そのムードを煽った両氏の責任は重い。

迫害されているジャーナリストの支援を、日本ジャーナリスト会議は大きな活動目的のーつに掲げている。最高裁の決定で、植村さんの訴えは認められなかったが、従軍慰安婦の歴史の解明と、言論を脅迫と暴カで抑え込もうとする勢カとの闘いに、これからも全カで取り組む決意だ。

 

 

最高裁決定 メディア総合研究所 声明 2021年3月11日

歴史の闇に光を当てる果敢な報道を期待する ~一連の「植村裁判」終了に当たって~

 

元朝日新聞記者で『週刊金曜日』発行人の植村隆さんが、「慰安婦」報道をめぐる署名記事を「捏造」と決めつけた研究者らに対して名誉棄損を訴えた一連の裁判で、最高裁による判断が示された。残念ながら植村さん側の主張は認められず、慰安婦問題をめぐる事実に基づかない主張は、「真実相当性」のハードルを下げる司法判断によって、札幌・東京の地裁・高裁、そして最高裁に容認されてしまった。

根拠のない情報を流布させた責任を免責した一連の司法判断が、この国の言論空間をさらに歪んだものにしてしまう悪影響を強く懸念せざるを得ない。とくに、誤った情報で不当なバッシングにさらされた植村さんとそのご家族が、法的には何の補償も得られないことになったのは返す返すも残念だ。

一方で、被告の西岡力氏や櫻井よしこ氏らは、いずれの法廷でも植村氏の記事を「捏造」と断定した根拠を示すことができず、かえって自身の主張の一部を訂正することを余儀なくされた。このように、一連の裁判を通じて、植村さんが決して「捏造記者」でなかったことが事実をもって証明された、と日本の司法が認定したことにもなった。札幌・東京双方における植村さんの弁護団の皆さんに対し、この間の多大な努力を心より労いたい。また、この裁判のたたかいを通じて、全国各地の心ある市民やジャーナリスト、学生たちの間に広がった支援の輪も、得難い成果だと言えるのではないだろうか。

「フエイクニュース」がSNSなどで容易に拡散してしまう今日、事実に基づいた正確な報道・情報はますます重要性を帯びてきている。それは、プロフェッショナルとしてのジャーナリストたちの地道な活動なくして成り立たない。いわゆる「慰安婦」問題については、近年の歴史研究の進展にもかかわらず、日本国内の一般のメディアによる報道は、残念ながらごく一部に限られている。報道の現場で働く方々の一層の奮起を願わずにいられない。

戦争における加害・被害の悲劇を二度と繰り返さないためにも、現代そして次世代を担う記者・ジャーナリスト各位には、日本の戦争責任・植民地責任をめぐるテーマについて、臆することなく果敢に報道していくことを、心から期待したい。

2021年3月12日、メディア総合研究所長 砂川浩慶

 

最高裁決定 日本マスコミ文化情報労組会議 声明 2021年3月11日

ジャーナリストへの「言われなきバッシング」を容認し「ジェンダー平等」逆行の司法判断を批難する 

 

元慰安婦の証言を書いた記事に対して繰り広げられた「捏造」バッシングについて、元朝日新聞記者の植村隆さん(現・週刊金曜日発行人)が名誉回復を求めていた損害賠償訴訟(東京訴訟)の上告が退けられ、請求を棄却した一審、二審が確定しました。もう一つの損害賠償訴訟(札幌)の上告棄却に続く不当な判断で、大変遺憾です。一連の司法判断を受けて求めた「真実相当性」の判断についても棄却されました。この判断は、S N Sなどで氾濫するフェイクニュースや性被害者、ジャーナリストに行われている「言われなきバッシング」を助長しかねません。戦時性暴力の被害者である慰安婦の証言を報じた側には社会的に重い責任を負わせ、被害者の証言報道を「捏造」などと貶める側の取材不足・誤読・曲解については大幅に免責する一連の司法判断が確定したことは、維持されるべき「民主主義」や「ジェンダー平等」の広がりに逆行するもので、強く抗議し批難します。

一連の訴訟は、1991年に韓国で初めて「元慰安婦」であったことを名乗り出た女性の証言を新聞記事にした植村氏に対して、西岡力麗澤大学客員教授とジャーナリストの櫻井よしこ氏が、2014年ごろからコラムや論文で「捏造」記者と攻撃したことに端を発します。当時、植村氏の勤務先の大学に退職を要求する脅迫文が大量に送りつけられたり、インターネット上で家族を含めた個人攻撃が行われたりしました。訴訟で、植村氏を「捏造」と断じていた西岡氏や櫻井氏の主張の根拠が成り立たないことが明らかになりましたが、控訴審を含めて、西岡氏や櫻井氏らを免責する判決が出ました。

今回確定した二つ訴訟の判決で問題にすべき点は、免責につながる「真実相当性」に対する判断です。「桜井氏は(植村氏)本人に取材しておらず、植村氏が捏造したと信じたことに相当な理由があるとは認められない」とする植村氏側の主張を退ける際、札幌高裁が「真実相当性」に関わる判断として、「資料などから十分に推認できる場合は、本人への取材や確認を必ずしも必要としない」としました。

続く上告審では、名誉毀損の免責理由となる、この「真実相当性」について、判断の見直しを求めましたが、退けられました。「真実相当性」は「確実な資料や根拠に基づき真実だと信じることが必要」とされていますが、今回の棄却によって「真実相当性」に対するハードルを下げて解釈することが可能になるのではないかと危惧します。

そもそも、意に沿わない記事を書いた記者を社会から排除しようとする行為そのものが「言論の封殺」につながり、批難されるべきものですが、今回の判断により、報道や言論表現をする上で、デマやフェイクの歯止めとなる「真実相当性」のハードルが下がってしまいかねません。確実な資料や根拠に基づかないバッシングも許してしまったり、フェイクニュースを根拠に新たなフェイクニュースが生み出され拡散されてしまったりしても、発出した責任が問われにくくなる恐れがあります。そのような流れが社会的に容認されてしまうことは、メディアの労働組合として到底看過できません。

事実に基づいて記事を書いた記者を「捏造」だと流布し、そのレッテル貼りが許されれば、モラルに沿い、事実に基づいて行われるべき報道のあり方そのものが否定されるのと同じです。その否定は、民主主義の根幹を揺るがすことにもつながりかねません。また、「記者への死刑判決」とも言える、事実に基づかない「捏造」のレッテル貼りも容易となり、とがめられなくなれば、表現活動への萎縮ムードを招きます。結果として、為政者にとって都合のいい歴史修正主義が横行してしまい、次世代のジャーナリストが過去の歴史的事実に向き合い、報道していく道を狭めてしまいます。

また、植村裁判の一連の司法判断では、歴史的事実や女性の人権に対する裁判所の認識の歪みが表れていましたが、その歪みに「司法のお墨付き」が与えられてしまいました。その象徴としては、植村氏が報じた慰安婦の証言について、「単なる慰安婦が名乗りでたにすぎないというのであれば、報道価値が半減する」と札幌高裁の言及があります。戦後、長い苦しみの時間を生き抜き、勇気と決意をもって名乗り出た女性を「単なる慰安婦」と貶めました。この言葉は、過去の戦時性暴力と向き合わず、現代の女性の性被害事件に対して連続で無罪判決を下してきた、司法の「遅れたジェンダー平等」感覚を体現しているのではないでしょうか。公に発せられたこの言葉は、私たちを大いに失望させ、過去と現代に生きる全ての女性への侮辱や著しい人権侵害と解します。そのような観点から見ても、今回の上告棄却は、今後の性暴力被害の告発やその報道にも深刻な影響が出かねないもので、容認できません。

今回の上告棄却を受けても、メディアの労働組合に集まる私たちは、植村さんをはじめとする、真実を追い求めて報じるジャーナリストに対する攻撃を許しません。また、事実に基づく報道や表現活動が尊重され、守られることをのぞみます。これからも、過去から未来にかけて女性の人権を侵害し、ジェンダー平等を否定したり、逆行したりするような公的な判断や行為については、批難するとともに、絶えず修正を求めていきます。

2021年3月12日

 

 

 

ここまで東京訴訟の抗議声明

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ここから札幌訴訟の抗議声明

 

 

 

札幌地裁判決  植村裁判を支える市民の会 声明  

市民の良識と正義感を打ち砕く「まったく不当な判決だ!! 2018年11月9日

 

植村隆氏が名誉回復を求めた今回の訴訟に対する、札幌地裁の判決は、櫻井氏がジャーナリストとして果たすべき取材活動の杜撰さを考慮しておらず、まったく不当である。

植村氏ばかりか私たち市民を深く深く失望させた。執拗な攻撃にひるまず声をあげた植村氏の勇気と、全力で応えた弁護団の周到かつ緻密な弁論、それらを見守り続けた市民の支援を理解しなかった裁判官諸氏は真実を誤ったばかりか、良識ある市民を裏切った。

植村氏に対するいわれのないバッシングが始まって5年、提訴から3年余が過ぎた。結審まで12回を数えた口頭弁論は傍聴の希望者が多く、わずか1回をのぞいて抽選となり、時には4倍近い倍率になった。市民の関心の大きさと深まりを、裁判官たちはどのように理解していたのだろうか。

植村氏支援を通じて市民が示したことは、二つに集約される。一つは市民の健全な良識だ。日本軍は戦時中、朝鮮などの女性たちを慰安婦にして繰り返し凌辱する、非人道的な行為を行った。この歴史的事実を直視し、日本がまずなすべきことは被害者に届く謝罪ではないか、という人間としての良識に立つ正義感である。歴史的事実をゆがめようとする櫻井よしこ氏らの歴史修正主義が、実際は誤った事実認識にもとづくものであることを市民は明確に認識し、「ノー」をつきつけていたのだ。歴史教科書から慰安婦記述を除外し、「あるものをなかったこと」にしようとする昨今の流れに対する憤りが渦巻いていた。

いま一つは、民主主義への希求である。正確な事実の報道と、それに基づいた人々の健全な判断があってこそ民主主義はよりよく機能する。事実を伝えてきた報道を、櫻井氏のように確たる裏付けもなく「捏造」呼ばわりし、記者を社会から葬ろうとする動きを、市民は“論評”に名を借りた無法と捉えた。それは森友・加計問題を「嘘とごまかし」で乗り切ろうとする安倍政権に対する市民の危機感とも通じるものがある。

こうした植村訴訟支援に込めた市民の正当な願いを、札幌地裁の裁判官は認識できなかったというわけだ。今回の判決は、植村氏が求めた名誉回復の希望を打ち砕いたばかりでない。家族の生命の安全をも脅かすネット世界の無法者たちを認めたことになる。日本軍の慰安婦にされた被害者をあらためて冒涜してしまった。民主主義における正当な報道のあり方をも著しくゆがめかねないと危惧する。

あらためて今回の不当判決を満腔の怒りを込めて糾弾する。そして、来る控訴審では、市民の良識に立つ正義の旗のもとに、植村氏、弁護団とともにこれまで以上の力を結集して闘うことを誓う。

2018年11月9日

植村裁判を支える市民の会 共同代表  

上田文雄(前札幌市長、弁護士)、小野有五(北海道大学名誉教授)、神沼公三郎(北海道大学名誉教授)、香山リカ(精神科医、立教大学教授)、北岡和義(ジャーナリスト)、崔善愛(ピアニスト)、結城洋一郎(小樽商科大学名誉教授)

 

札幌地裁判決  日本ジャーナリスト(JCJ) 声明 

櫻井の「言いがかり」許す判決に抗議  2018年11月9日

 

元朝日新聞記者の植村隆氏が櫻井よしこ氏(国家基本問題研究所理事長)と「週刊新潮」「週刊ダイヤモンド」「WiLL」を発行する出版3社に対し、名誉毀損を理由に慰謝料の支払いなどを求めた訴訟で、札幌地裁は11月9日、植村氏の請求を棄却する判決を下した。

植村氏が執筆した韓国人元慰安婦の証言記事(1991年)について、櫻井氏はずさんな「取材」で「捏造」と決めつけ、植村氏を攻撃した。確証もなく、事実の裏付けもない植村氏攻撃に対し判決は、記事を捏造と櫻井氏が「信じた」ことには相当の理由があると被告に甘い判断をし、櫻井氏を免責したのである。法廷の本人尋問で明らかとなった櫻井氏の事実確認を怠った、ずさんな「取材」には無批判だった。

日本ジャーナリスト会議(JCJ)は「言いがかり」や「難クセ」のような櫻井氏の攻撃を許し、記者の真面目な取材を冒涜する不当な判決に対し、断固として抗議する。

判決で見逃せない重大な問題は、韓国人の元慰安婦・金学順さんの証言について、あたかも義父によって日本軍に身売りされ、慰安婦になったかのような言説を示唆している点である。様々な証拠により①金さんは最終的に中国で、日本軍に力づくで慰安所に連れて行かれた②拒否したにもかかわらず将校にレイプされ、その後、日本兵相手に性行為を強要された――ことは明らかだ。この金さんの証言の核心部分を無視し、目をふさぐ判決になっている。

金さんが会見などで新聞記者に必死で訴えたのはこの部分である。判決はこの点に目を向けようとせず、櫻井氏が信じた「身売りされ慰安婦になった」言説を無批判に擁護している。証言への冒涜ともいえるだろう。

JCJは櫻井氏の一連の「捏造」攻撃がきっかけとなり、植村氏への脅迫が広がり、それも「娘を殺す」などの殺人予告につながっていった経緯を許すことはできない。判決はこうした脅迫行為のエスカレートに関しても、深刻に受け止める姿勢を見せていない。民主主義を守るべき裁判所、裁判官が自らの矜持を捨て去った判決であり、改めて抗議する。

2018年11月15日

 

札幌地裁判決 植村訴訟札幌弁護団 声明  2018年11月9日

 

1 本日、札幌地方裁判所民事第5部(岡山忠広裁判長)は、元朝日新聞記者植村隆氏がジャーナリストの櫻井よしこ氏及び週刊新潮、週刊ダイヤモンド、WiLL発行の出版3社に対して、名誉毀損を理由として慰謝料の支払いなど名誉回復を求めた訴訟で、原告の請求を棄却する不当判決を言い渡した。

2 札幌地裁の判決は、「捏造」を事実の摘示であることを認め、櫻井氏はその表現により植村氏の名誉を毀損したことを認めた。しかしながら、櫻井氏は金学順氏が日本政府を訴えた訴状等の記載から、継父によって人身売買された女性であることを信じ、原告の妻が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の娘であることから植村氏の本件記事の公正さに疑問を持って、原告が事実と異なる記事を敢えて執筆したこと、つまり「捏造」したと信じたことには理由があると判断した。

しかし、仮に櫻井氏が金学順氏が継父によって人身売買された女性であることなどを信じたとしても、そこから植村氏が敢えて事実と異なる事実を執筆したと信じたとの判断には論理の飛躍がある。

また、櫻井氏への本人尋問では、櫻井氏は取材の過程で植村氏に取材を行わず、訴状や論文の誤読など、取材の杜撰さが明らかになった。

本日の判決は櫻井氏がジャーナリストであることを無視して、櫻井氏の取材方法とそれによる誤解を免責するものである。

これを敷衍すれば、言論に責任を負うべきジャーナリストと一般読者とが同じ判断基準で判断することは、取材が杜撰であっても名誉毀損が免責されることになり、到底許されるものではない。

3 私たち弁護団は、本日の不当判決を受け入れることはできない。原告及び弁護団はこの不当判決に控訴をし、植村氏の名誉回復のために全力で闘う決意である。                    

2018年11月9日

 

札幌高裁判決  植村裁判を支える市民の会声明 

「卑劣なバッシング惹起」再び免責に抗議する2020年2月6日

 

一人のジャーナリストを標的とする卑劣なバッシングを惹起した言説を、札幌高裁判決はまたもや免責した。旧日本軍による性暴力被害者の悲痛な訴えを報じた朝日新聞記事を「捏造」と断じた言説に、証拠によらずに「真実相当性と公益性はある」とした一審判決をそのまま踏襲したことに驚きと憤りを禁じ得ない。市民感覚では到底理解できない判断を続ける札幌地裁・高裁に強く抗議する。

記事を執筆した原告の植村隆氏はいわれなく「捏造記者」の汚名を着せられた。得体の知れない無数の人々から「売国奴」「国賊」の罵声を浴び、家族を「殺す」と脅された。植村氏を「捏造記者」と非難し、バッシングの発火点となった被告の櫻井よしこ氏はジャーナリストを自称しながら、「社会の怒りを掻き立て、暴力的言辞を惹起しているものがあるとすれば、それは朝日や植村氏の姿勢ではないでしょうか」(『週刊文春』20141023日号)と信じがたい人権感覚を露呈した。櫻井氏が「捏造」の根拠として示したものは、植村氏本人や元慰安婦に対する丹念な取材によって積み重ねたものではなく、資料のつまみ食いと邪推のつなぎ合わせに過ぎない。しかし、控訴審判決はジャーナリストの基本動作ともいえる当事者への直接取材の必要性すら否定した。「事実を認めて、間違ったことは謝罪して」。植村氏が初報した元慰安婦、金学順氏=故人=がふり絞った魂の叫びと尊厳をも踏みにじったに等しい。 

植村裁判には歴史認識の相克というもう一つの争点がある。日本の戦後民主主義は侵略戦争と植民地支配への反省から、専横の限りを尽くした国家の戦争責任と向き合う努力を重ねてきた。戦後ジャーナリズムの主要な流れもまた同様である。国家ぐるみの証拠隠滅によって生じた歴史の空白を、埋もれた資料や当事者の勇気ある証言の発掘によって地道に埋める作業が今も営々と続いている。植村氏の記事もその文脈に位置付けられる。

そうした立ち位置からの真摯な言論・報道を「国家の名誉を貶める」として排撃する歴史修正主義者たちが一部の政治勢力や知識人と呼応している。そのオピニオンリーダーの一人として櫻井氏の影響力は小さくない。櫻井氏らの言説の手法は一見美しい「愛国」の衣をかぶりながら、歪んだナショナリズムを煽動する。煽動に加担する一部メディアとの共同作業によって惹起される暴力や人権侵害に司法が寛容であれば、戦後民主主義が構築してきた自由で公正な言論空間は危殆に瀕する。植村裁判への支援を通して、日本社会に巣くう深刻な病理との闘いをこれからも継続していきたい。

2020年2月6日

 

札幌高裁判決  弁護団声明 2020年年2月6日

 

1 本日、札幌高等裁判所第3民事部(冨田一彦裁判長)は、元朝日新聞記者植村隆氏がジャーナリストの櫻井よしこ氏及び週刊新潮、週刊ダイヤモンド、WiLL発行の出版3社に対して、名誉毀損を理由として慰謝料の支払いなど名誉回復を求めた訴訟で、植村氏の控訴を棄却する不当判決を言い渡した。

2 控訴審の審理において、櫻井氏が記事執筆にあたり、資料を誤読・曲解したり、植村氏に取材の申し込みすら行わないなど、取材の杜撰さなどが一層明らかになった。

しかしながら、本判決は、櫻井氏が誤読・曲解した資料の「総合考慮」により金学順氏は検番の継父にだまされて慰安婦になったと信じたことに相当の理由があるとした。さらに、いわゆる吉田供述を前提に、朝鮮人女性を女子挺身隊として強制的に徴用したと報ずれば、戦争責任に関わる価値が高い反面、単なる慰安婦が名乗り出たにすぎないのであれば、報道価値が半減するとしたうえで、植村氏は女子挺身勤労令の規定による女子挺身隊と慰安婦を関連づけて報じたと信じたことには相当の理由があると判断した。

また、植村氏が事実と異なることを知りながら記事を執筆していないにも関わらず、櫻井氏がそのように信じたことについては、櫻井氏が誤読・曲解した資料の存在を理由に、植村氏本人に取材をする必要性はないとして、この点を免責した。

そもそも判例は真実相当性はこれまで相当に厳格に判断されており、本人への直接 取材などを含め、詳細な取材がなければ認められないとされてきた。本判決は、最高裁が積み上げてきた真実相当性の判断枠組みから大きく逸脱した判断であり、到底許されるものではない。

3 私たち弁護団は、本日の不当判決を受け入れることはできない。植村氏及び弁護団はこの不当判決に上告をし、植村氏の名誉回復のために全力で闘う決意である。

2020年2月6日

 

最高裁決定  植村裁判を支える市民の会声明  

歴史を裏切る判決許さず 202011月26日

 

「国賊」「売国奴」。過去を直視する言論・報道が暴力をも示唆する卑劣なバッシングにさらされる。そのような社会であってはならない――。植村裁判支援に結集した市民が共有した思いである。植村隆氏の朝日新聞記事を根拠なく「捏造」と断じ、バッシングを呼び起こした櫻井よしこ氏らに名誉毀損の法的責任を求めた札幌訴訟は18日、最高裁の上告棄却によって一区切りがついた。結果は「敗訴」でも、私たち市民の思いはいささかも揺らいでいない。

「慰安婦」として旧日本軍によって屈辱的な戦時性暴力にさらされた朝鮮人女性、金学順さん(キム・ハクスン、故人)の無念を伝える記事であった。櫻井氏らの言説は、卑劣な集団的セカンドレイプと言うべき社会現象を引き起こしたにもかかわらず、「公益性」「真実相当性」を理由に免責した判決は、旧日本軍に慰安婦とされた金さんはじめ多くの女性たちの魂の叫びをもかき消した。

判決は櫻井氏らの主張を「真実」と認定せず、植村氏の社会的評価を低下させる名誉毀損に当たるとした。免責の理屈はどうあれ、記事を「捏造」と断じた根拠を櫻井氏らは全く示すことができなかった。櫻井氏がジャーリストを自称するのであれば、「捏造記者」の汚名は櫻井氏こそが引き受けるべきであり、勝ち誇ることは許されない。

旧日本軍慰安婦問題をめぐる事実に基づかない櫻井氏の主張を、「真実相当性」のハードルを下げることで、札幌地裁、同高裁、そして最高裁は容認した。このことが「司法のお墨付き」と解され、歴史的事実を無視した誹謗中傷を引き起こさないかと私たちは恐れる。すでにその兆候が見られる。

こうした禍根を将来に残さないためにも、歴史修正主義との闘いを継続する責任を私たち市民は負っている。重い責任ではあるが、あるべき社会を目指す新たな一歩をあすから踏み出す決意を表明したい。

裁判支援を通して多くの出会いが生まれた。2015年2月の提訴以来、札幌での報告集会は17回を数える。多彩な講師を迎え、金学順さんの生前の肉声にも触れた。戦時性暴力の加害責任と 私たちの社会はどのように向き合っていくべきか、学びを深めたことは闘いが獲得した成果である。植村氏は国内外を講演行脚して支援の輪を広げ、カンパは世界中から寄せられた。この6年近くに及ぶご支援に心から感謝しつつ、残る東京訴訟の最高裁決定を注視したい。

2020年11月26日

 

最高裁決定  弁護団声明 

最高裁判断を踏まえて 2020年11月26日

 

植村隆氏が櫻井よし子氏らを相手取った名誉毀損訴訟で、最高裁判所第2小法廷は去る11月18日付で上告棄却・上告不受理決定を出しました。

これによって、櫻井氏が植村氏の記事を「捏造」と書いたことが名誉棄損に当たることを認めつつも、「捏造」記事と信じたことに相当の理由があるとして櫻井氏を免責した札幌地裁判決(2018年11月9日付)が確定しました。

この札幌地裁判決は、「従軍慰安婦とは、太平洋戦争終結前の公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性などの呼称のひとつ」などと、河野談話をはじめとする政府見解にも反する特異な歴史観をあからさまに示した上で、櫻井氏による名誉毀損行為を安易に免責した不当判決にほかなりません。札幌高裁判決もこれを追認しました。

最高裁がこれまで幾多の判断で営々と積み上げてきた名誉毀損の免責法理を正当に適用せずに、植村氏への直接取材もしないなど確実な資料・根拠もなく「捏造」と決めつけた櫻井氏を免責する不当判決を追認してしまったことに、強い憤りを覚えるものです。

とはいえ、札幌訴訟の一連の司法判断は、「捏造」と決めつけた櫻井氏の表現行為に真実性を認めたものではなく、むしろ、札幌地裁判決でも「継父によって人身売買され慰安婦にさせられた」という櫻井氏の表現が真実であると認めることは困難である旨を認定しています。

また、櫻井氏自身も、元慰安婦の1人が日本政府を相手取った訴状には「14歳の時、継父によって40円で売られたと書かれている」と真実に反することを述べていたことを被告本人尋問で認め、産経新聞とWiLLに訂正記事を出さざるを得なくなりました。

何よりも、植村氏が敢然と訴訟に立ち上がったことによって、櫻井氏による一連の「捏造」表現を契機とした植村氏への激しいバッシング、同氏やその家族あるいは勤務先だった北星学園大学に対する脅迫行為を止めることができました。

私たちは、こうした成果を確信するとともに、植村氏の訴訟をこれまで支援してくださった皆さまに対し、心からの感謝を申し上げます。

そして、植村氏の東京訴訟の勝利のために引き続き連帯を強めることを決意するとともに、二度とこのような人権侵害が繰り返されることのないよう、取り組みを続けていく所存です。

2020年11月26日