PART ◎判決を批判する

 

「真実相当性」の法理を逸脱した確定判決

東京と札幌の計4回の判決に共通するのは、名誉毀損表現によって植村氏の社会的評価が低下したことを認めたものの、「真実相当性」の法理や判例基準を逸脱する理屈で被告を免責したことである。また、植村氏が受けた損害については、被告の主張する公益目的をタテにして、具体的な検討に踏み込まなかった。争点の中心となった「捏造」決めつけの根拠については、①キーセン経歴を書かなかったこと、②義母の裁判に利するために書いたこと、の2つは事実ではないとして「真実性」が否定された。被告の拠り所とする「人身売買説」は認められなかったことになる。しかし、③総動員令による挺身隊を想起させる表現を用いて意図的に金学順さんは強制連行されたと書いた、との被告側の主張は、札幌訴訟では「真実相当性」の認定にとどまったものの、東京訴訟では「真実性」が認められ、被告側が裁判終結後も「捏造」と言い続ける素地を残すことになった。各判決についての解説、批判、コメント、抗議声明を以下に記録し、判決の問題点を明らかにする。 

  

PART6の記事

 

記事内容

 各判決の骨子と要点  東京地裁、東京高裁、札幌地裁、札幌高裁

 

 東京訴訟 判決批判

地裁判決=

  解説 神原元 -判例基準を逸脱し法理を捻じ曲げる判決

  発言 神原元、穂積剛、小野寺信勝、植村隆

  批判 控訴理由書が指摘する原判決の誤り

高裁判決=

  解説 佐藤和雄-連敗だが高裁でも「人身売買」説は認定されなかった

  発言 植村隆-過去を否定するものには寛大な判決だ 

 

 札幌訴訟 判決批判

地裁判決=

  発言 小野寺信勝、上田文雄、植村隆

  解説 小野寺信勝-櫻井の杜撰な調査や誤引用を無批判に認めて免責

  批判 控訴理由書-判例逸脱と櫻井言説の変遷について

  批判 志田陽子、右崎正博、日本ジャーナリスト会議

  解説 ここがおかしい、13の問題点

高裁判決=

  発言 植村隆不当判決だ、上告する

  解説 佐藤和雄櫻井よしこ氏免責は政権「忖度」か

  解説 小野寺信勝地面まで下がった判例法理のハードル

  解説 水野孝昭裁判官の人権感覚を疑う

 

 抗議声明

東京地裁判決=弁護団、原告植村隆、植村さんを支える仲間たち

東京高裁判決=弁護団、控訴人植村隆

最高裁決定=弁護団、植村隆、日本ジャーナリスト会議、メディア総合研究所、日本マスコミ文化情報労組会議

 

札幌地裁判決=植村裁判を支える市民の会、日本ジャーナリスト会議、弁護団

札幌高裁判決=植村裁判を支える市民の会、弁護団

最高裁決定=植村裁判を支える市民の会、弁護団

 

 終結に当たって

報告 伊藤誠一弁護士

メッセージ 植村隆

メッセージ 植村裁判を支える市民の会

 

 

 

 

 

 

東京地裁判決の要点

西岡の「キーセン身売り説」に相当性認める

西岡の「縁故利用説」にも合理性認める

 「意図的に事実と異なる記事を書いた」に真実性を認める

植村記事の意図を否定

慰安婦について、「公娼制度の下で売春に従事した女性」と定義(札幌地裁判決と同じ)

 

東京高裁判決の要点

キーセン身売り説に「真実相当性」を認める

 縁故利用説にも「真実相当性」を認める  

「事実と異なる記事を書いた」に「真実性」を認める

朝日新聞の報道姿勢を厳しく論難  

 

札幌地裁判決の要点

慰安婦の定義を櫻井の主張通り、「戦地で売春に従事していた女性」とした

櫻井が主張する「人身売買説」は真実とは認められない、と判断した

櫻井が「人身売買説」を信じたことに、相当の理由を認めた

櫻井が訂正した誤りについては、「援用に正確性を欠いても相当性は欠けない」と判断した

 「金学順氏は、女子挺身隊の名で連行、とは語っていなかった」と認定した

「植村記事Aは強制連行を報じた」と櫻井が信じたことに、相当の理由を認めた

義母との関連で「記事Aは事実と異なる」と櫻井が信じたことに相当な理由を認めた

金学順氏が言う「挺身隊」は法令上の「女子挺身隊」ではない、と認定した

櫻井のバッシング拡散目的を否定し、公益目的があると判断した

 

札幌高裁判決の要点

資料には「一定の信用性がある」とし、櫻井に真実相当性を認めた

日本軍関与は「消極的事実」だとして、櫻井に真実相当性を認めた

「単なる慰安婦の名乗り出なら報道価値が半減する」と断定した

「勤労令の女子挺身隊と結びつけた」と櫻井が信じたことに相当性を認めた

「推論の基礎となる資料が十分あるから本人取材は必要がない」と断定した