勝訴判決後に記者会見する弁護団(2016年8月3日、司法記者クラブ)
勝訴判決後に記者会見する弁護団(2016年8月3日、司法記者クラブ)
植村裁判報告集会の会場に掲示された垂れ幕
植村裁判報告集会の会場に掲示された垂れ幕
勝訴報告をする植村氏
勝訴報告をする植村氏

 

関連する裁判 長女のネット中傷訴訟  

 

 

完全勝訴! 投稿者に満額賠償を命令

植村隆さんの娘さんが、ネットで中傷の書き込みをした投稿者を相手取って起こした裁判の判決が2016年8月3日午後、東京地裁で言い渡された。原告(娘さん)が請求した170万円満額が認められ、原告側は全面勝訴した。 

 

今回の訴訟は、植村さんの娘さんが2014年9月、写真と名前をツイッター上にさらされ「反日韓国人の母親、反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド。将来必ず日本に仇なす存在になるだろう」などと中傷の書き込みをされた問題をめぐる一連の裁判の一環。8月3日に言い渡されたのは、このツイッターを書き込んだ投稿者本人を相手取った訴訟の判決だ。

原告側資料によると、植村さんの娘さんは代理人を通じて2015年3月、まずツイッター社に発信者情報の開示を求める仮処分を東京地裁に申し立て、同年6月に投稿者のIPアドレスの開示を命じる仮処分決定が出た。ツイッター社からの開示を受けてプロバイダーを特定し、プロバイダーを相手取り投稿者の住所氏名の開示を求める訴訟を提起。今年2月の地裁判決で開示が命じられた。

プロバイダーが開示した個人情報で特定された投稿者を相手取り、「ツイッターの投稿で名誉が傷つけられ、プライバシー権と肖像権が侵害された」として2月に提訴。被告本人は法廷に出頭して、自分が投稿したことを認めたといい、8月3日に判決が言い渡された。

2014年に植村さんや家族、勤務先の大学を襲った一連のバッシングのうち、この1件だけだが、記事と何の関係もない娘さんを攻撃したツイッター投稿者の身元を裁判によって特定し、責任を追及したことになる。原告弁護団は、同種の匿名による誹謗中傷に対する抑止力になるよう、この判決の意義を広めたい、と言っている。

原告側はプライバシー保護を理由に、この訴訟を公にせず進めてきた。

 

この日、東京地裁ではこの判決の後、午後3時から別の法廷で植村裁判東京訴訟の第6回口頭弁論があり、午後4時すぎからは報告集会が開かれた。娘さんの完全勝訴の知らせはその集会の冒頭に報告された。会場には大きな拍手が沸き起こった。植村弁護団(東京)の神原元弁護士は、「認容額が高額であること、また満額であることは異例だが、高く評価できる」と解説した。植村さんは、「裁判所は和解を勧めたが娘は判決を求めた、そして勝った。私はそんな娘に支えられている、だから私は負けない」と語った。

 

以下に判決全文を収録する (書式は変えてある、■■は氏名と学校名)

  


 

 

平成28年8月3日判決言渡

平成28年(ワ)第5885号 損害賠償請求事件

 

判   決

 

原告 植村■■

同訴訟代理人弁護士 坂口徳雄
同             西岡弘之
同             廣田智子
同             大西啓文
同             出口裕規
同             斎藤悠貴

被告 ■■■■

主   文
1 被告は、原告に対し、170万円及びこれに対する平成26年9月8日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

 

事   実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
  主文と同旨。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする

第2 当事者の主張
 1 請求原因
(1)被告は、平成26年9月8日、インターネット上のサービスであるツイッターにおいて、原告の写真を掲載し、「朝日新聞従軍慰安婦捏造の植村隆の娘、■■■■■■■■2年植村■■が、高校生平和大使に選ばれた。詐欺師の祖母、反日韓国人の母親、反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド。将来必ず日本に仇なす存在になるだろう。」との投稿をした(以下「本件投稿」という。)、
 本件投稿は、原告の親族に犯罪者や日本を害する思想を有する者がおり、原告自身も将来日本を害する存在になる人物であるとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害するものである。
 また、本件投稿は、原告の父が元朝日新聞記者の植村隆であること、原告の氏名、所属する高校名及び学年を原告の容姿が写った写真とともに明らかにするものであるところ、これらは、原告の私事に関する事実であり、原告の立場に立たされた一般人において公開を望まない事柄である、特に、原告の父は、かつて作成した記事により、不特定多数の者から脅迫等を受け、インターネット上の書き込みの中には、家族への攻撃を示唆するものも多数存在したのであり、本件投稿により、原告の生命及び身体に危険が生じる可能性があるから、原告の立場に立たされた一般人において絶対に公開を望まない事柄を摘示したものといえる。したがって、本件投稿は、原告のプライバシー権を侵害するものである。
 さらに、本件投稿は、原告の容貌が写った写真を添付して行われているところ、これは、原告の意に反し、原告の容貌及び姿態をみだりに公表するものであるから、原告の肖像権を侵害する。

(2)本件投稿による損害の発生
ア 精神的損害
 本件投稿は、原告の社会的評価を低下させ、同人の父に対するバッシングなどの攻撃が原告に及ぶことを意図してされたものであること、不特定多数の者に容易に閲覧され、伝播性が強いインターネット上のツィッターにおいてされたものであること及び原告の写真や所属する学校名や学年を特定してされたものであることなどに照らせば、本件投稿当時17歳の高校生であった原告の恐怖及び不安は耐え難いものであり、原告の精神的損害は300万円を下らない。
イ 調査費用及び弁護士費用
(ア)訴外ツィッターインクに対する発信者情報開示の仮処分に関する弁護士費用 20万円
(イ)訴外ツィッターインクに対する発信者情報開示の仮処分に関ずる翻訳費用 20万円
(ウ)経由プロバイダに対する発信者情報開示手続に関する弁護士費用 20万円
(エ)本件訴訟の弁護士費用 10万円

(3)よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、一部請求として、精神的損害300万円のうち100万円及びその他の損害70万円の合計170万円並びにこれに対する不法行為の日である平成26年9月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否
 認める。
 本件投稿を行ったこと、その違法性及び損害額については争わない。ただし、本件投稿のみが原因で原告の生命及び身体に対する危険が増加したわけではない。

理   由
1 請求原因に争いはなく、本件投稿が、原告のプライバシーや肖像権を侵害する違法なものであることは明らかである。
2 損害額についても当事者間に争いがないが、精神的損害の額については、弁論主義の適用がないことから、この点について、以下検討する。
 証拠(甲2及び甲3)によれば、原告の父は、平成26年2月頃から、自身が執筆した従軍慰安婦に関する記事がねつ造であるなどとして、不特定多数の者からバッシングを受け、同年5月頃には、生命に危害を加える旨の脅迫状が勤務先に送付されてきたこと及び家族に対する攻撃を示唆するインターネット上の書き込みも多数存在していたことが認められる。このような状況下において、被告は、原告について、「朝日新聞従軍慰安婦捏造の植村隆の娘」と記載した上で、原告の容姿が写った写真とともに、原告の氏名、通学先の高校名及び学年を摘示して原告の特定が容易にされるようにしたものであり、また、原告の父がその仕事上した行為に対する反感から未成年の娘に対する人格攻撃をしたものであって、その行為態様は、悪質で違法性が高いものというべきである。
 そして、上記各情報による原告の特定可能性の高さや、ツイッター利用による伝搬可能性の高さからすれば、本件投稿がされた当時17歳の高校生であった原告の恐怖及び不安は耐え難いものであったと考えられる。さらに、本件投稿自体は削除されたものの、平成28年6月16日の時点においても、本件投稿をスクリーンショットによって撮影した画像がインターネット上に残存しており(甲18及び甲19)、本件投稿による権利侵害の状態が継続していると認められること等、本件に顕れた事情に照らすと、本件投稿によって被った原告の精神的損害を慰藉するには、200万円が相当というべきである。
3 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第24部
裁判長裁判官 朝倉佳秀
     裁判官 奥田大助

     裁判官 佐々木康平