植村氏が受けた被害 週刊文春の取材姿勢と害意

  

ジャーナリズムを逸脱した卑怯で犯罪的な行為

植村隆 意見陳述書(2018年9月提出)より

 

私は、私に対する「バッシング」を引き起こした「週刊文春」の取材姿勢は、ジャーナリズムの方法として問題があり、単なる「名誉毀損」を超えた不法行為ではないかと思っています。この点について説明します。

前記のとおり、私へのバッシングのきっかけになったのは、2014年2月6日号の「週刊文春」の記事ですが、この記事を書いたのは、当時、「週刊文春」の記者だった竹中明洋氏です。

 

竹中氏が私に取材を申し込んできたのは、2014年1月26日の日曜日でした。支局にかかってきた電話が私の携帯に転送されたのです。私は「広報を通して欲しい」と頼みました。竹中氏は翌朝、当時私が勤務していた朝日新聞函館支局の前にやってきて、インターフォン越しに取材を申し込みましたが、私は前日と同じように答えました。朝日新聞は記事の内容などについて、外部から取材があった場合は、書いた記者本人でなく、広報部が窓口として対応することになっています。このルールは、朝日新聞の記事について取材する週刊誌などのメディアには、周知されているはずでした。

私は、支局前でトラブルが起きても困ると考え、当時の上司である札幌の報道センター長に連絡しました。「とにかく事務所の外に出ろ」という指示を受けたので、タクシーで支局を離れました。その時に支局のドアの前に来て、私に声をかけたのは、竹中氏一人でした。竹中氏には、記事で「逃げた」と書かれました。私も記者ですから、待ち伏せすることはあります。しかし、「広報を通して」と答えた取材対象者について、「逃げた」とは書きません。扇情的な記事を狙っていたのでしょう。こうした手法で、読者の憎悪を引き出すやり方は、決して許せません。

 

竹中氏は、1月27日に、神戸松蔭に、私の就職などについて以下のような質問状をメールで送っています。「この記事をめぐっては現在までにさまざまな研究者やメディアによって重大な誤り、あるいは意図的な捏造があり、日本の国際イメージを大きく損なったとの指摘が重ねて提起されています。貴大学は採用にあたってこのような事情を考慮されたのでしょうか」。私はのちにこの質問状を神戸松蔭から見せてもらい、憤りを感じました。これを見た瞬間、この記者と闘わなければと思いました。取材対象者に対する脅しのような内容で、私の名誉を毀損する内容だからです。これを受け取った大学側は追い詰められたのではないでしょうか。想像するだけで、怒りを禁じえません。

 

1月30日にこの記事が載った「週刊文春」2月6日号が発売されました。竹中氏は、朝日新聞の広報部に取材をしておきながら、私の記事についての朝日側の説明を全く掲載せず、極めて一方的で、アンフェアな記事でした。しかも、私が大学で慰安婦問題に取り組みたいと言っているという内容もありました。当時の私は慰安婦問題から距離を置いており、そんなことを言った覚えはありません。作り話でした。この記事が出た後、神戸松蔭には、就任取り消しなどを要求するメールが1週間で250本送られてきたというのです。ファックスや電話での抗議も多数ありました。私は大学の当局者に呼び出され、2月5日に面談をしたのですが、大学側は「捏造記者でない」という私の説明は聞いてくれませんでした。

「文春の記事を見た人たちから『なぜ捏造記者を雇用するのか』などという抗議が多数来ている。記事(植村の)内容の真偽とは関係なく、このままでは学生募集などにも影響が出る。松蔭のイメージが悪化する」などと言われました。大学当局者はおびえきっていて、話は平行線でした。外部からの攻撃だけでなく、週刊文春という大手雑誌の威嚇的な質問もまた大学当局に大きな影響を与えたのだと思います。

 

後でわかったのですが、1月27日に函館支局には、ジャーナリストの大高未貴氏も来ていたというのです。大高氏は2月3日のインターネットのテレビ番組「チャンネル桜」に登場し、私のことを「元祖従軍慰安婦捏造記者」と中傷しました。その中で彼女は、こう言いました。「インターホン越しにあの、取材申し込みしても、朝日新聞の広報を通してくれの一点張り。で、朝日新聞本社の広報を通しても、え、今回は忙しくて、取材お受けできませんといって、必死に植村記者の、を、かばって、取材させない訳なんですね」。さらに、こうも言っています。「ある週刊誌の記者と一緒に行ってたんですけれども」。大高氏はこの番組で、竹中氏と一緒に行っていたことを明らかにしているのです。しかし、私が、インターフォンで話したのは竹中氏のみです。私は大高氏とは会ってもいません。来ていたことも知りませんでした。ネットで、大高氏は自分でインターフォン越しに話したように語っていますが、これは竹中氏から聞いた話だと思われます。竹中氏はネットで流されることを承知の上で、大高氏に自分の取材情報を伝えたことになります。こうしたネットと連動するような取材のやり方は、犯罪的だと思います。「捏造記者」というレッテルがネットに流れれば、すさまじい植村バッシングがおきることは容易に想像できたはずです。

 

これは一種の「未必の故意」ではないでしょうか。この「チャンネル桜」のサイトには「外患罪で死刑にしろ」「ノイローゼにさせ本物の基地外にしよう」などの誹謗中傷の書き込みが相次ぎました。私は週刊誌記事とネットの両方で個人攻撃を受けたのです。

神戸松蔭の代理人からの情報によると、「週刊文春」から、同年3月3日に神戸松蔭に私の着任について、「白紙になったのか」との問い合わせがあったとのことです。大学側の事務局長が「着任しない」と伝えたそうです。「週刊文春」は3月13日号でも私の問題を書いています。私が着任しないことを聞いた後で、この記事に朝日新聞の「91年8月11日付朝刊記事を書いた当時、韓国では広い意味で『女子挺身隊』と『従軍慰安婦』が同義語として使われていました」などとする朝日新聞側の私の記事についての説明を16行も書いています。本来なら、2月6日号の記事に朝日側の説明として書くべき内容でした。「週刊文春」のやり方はひどいものです。初報(2月6日号)で朝日を言い分を載せず、私の就職がだめになってから、その後の報道(3月13日号)で、いかにも朝日の言い分も載せましたという書きぶりは、卑怯です。

 

さらに竹中氏は、私が非常勤講師をしている北星学園大学へも質問状を送っています。2014年8月1日に送られた質問状では「植村氏をめぐっては、慰安婦問題の記事をめぐって重大な誤りがあったとの指摘がなされていますが、大学教員としての適性には問題ないとお考えでしょうか」とありました。神戸松蔭に送ったものと似た内容です。やはり大学を怯えさせるような内容です。そして、竹中氏は「週刊文春」2014年8月14日・21日号「慰安婦火付け役 朝日新聞記者はお嬢様大学クビで北の大地へ」という記事を執筆しました。この記事の最後には「韓国人留学生に対し、自らの捏造記事を用いて再び“誤った日本の姿”を刷り込んでいたとしたら、とんでもない売国行為だ」とありました。仮定の話をしておきながら売国行為と書いて、読者の憎悪を扇動するような書き方です。実際にこの記事が出た後、8月30日付の消印で、私のことを「売国奴」と名指しする匿名のハガキが送られてきました。そこには「出て行けこの学校から 出て行け日本から」とありました。裏面には「日本人は植村隆を決して許さない」とありました。

 

そもそも、2月6日号の記事がきっかけで、神戸松蔭に激しいバッシングが起きて私が教授に採用されなかったことを知りながら、その半年後に同じような記事を北星について書いているわけです。当然、同じようなバッシングが北星にも起きて非常勤講師の職を失いうることは十分に予見できたはずです。しかし、竹中氏は同じことを繰り返しています。そこには植村の仕事を失わせ、経済的にも精神的にも追い詰めようという強い悪意が感じられます。まともな言論活動ではありません、言論によるテロ行為だと思います。この竹中氏の8月14日・21日号の記事の結果、北星学園にもさらに激しい抗議や嫌がらせが殺到し、私や家族は、さらに大きな人権侵害を受けることになりました。以上のような竹中氏の取材のやり方、記事の書き方は、ジャーナリズムの範囲を逸脱した、扇動とも言うべきものだと思います。

 こうした植村バッシングの引き金になった記事を竹中氏に書かせた「週刊文春」編集部、そして、それを発行する文藝春秋社には大きな責任があると思います。

 

 


週刊文春の積極的な害意

東京訴訟第4準備書面より

(2018年8月3日、第6回口頭弁論で永田亮弁護士が要旨を朗読) 

 

1. 植村氏は2014年4月から神戸松蔭女子学院大学で教鞭をとることになっていた。ところが同年1月30日、週刊文春に「慰安婦捏造朝日新聞記者がお嬢さま女子大教授に」という記事が掲載されると、記事は瞬く間にインターネット上に拡散し、同大学への激しいバッシングが始まった。

2. 1月30日のうちに、ブログに同大学の電話、ファクス番号などが載り、「本日、神戸松蔭女子学院大学の方に電凸(電話での抗議)してみました」というコメントが付された。「週刊文春、読みました。みなさんの声が大きければ、採用取り消し、ということになるかも……楽観的すぎるかな?」などの投稿がなされた。メール、ファクスは、1月30日から2月5日までに計247件に及んだ。「貴学は朝日新聞記者・植村隆氏を教授として迎へられるといふ週刊誌報道がありましたが、それは事実でせうか。植村氏は……所謂『従軍慰安婦』問題の禍根を捏造した人物の一人です。いはば彼は証明書付き、正真正銘の『国賊』『売国奴』です」といった内容だ。これらのメールやファクスは、週刊文春の記事を引用していることなどの点で共通する。

3. 同大学は、「週刊文春の記事が出てからは抗議の電話、メールなどが毎日数十本来ている。学校前で右翼の行動も危惧される。マイナスイメージが出たら存亡の危機にかかわる」などとして、植村氏に雇用契約の解除を申し出た。植村氏は、同大学も被害者と考え契約解除に応じざるを得なかった。

4. 2014年8月1日、週刊文春は今度は、植村氏が以前から非常勤講師を続けていた北星学園大学に対し、取材と称して「大学教員としての適性には問題ないとお考えでしょうか」とする文書を送り付け、植村氏との雇用契約の解除を迫った。同月6日には週刊文春に「慰安婦火付け役朝日新聞記者はお嬢様女子大クビで北の大地へ」と題する記事を掲載し、「韓国人留学生に対し、自らの捏造記事を用いて再び誤った日本の姿を刷り込んでいたとしたら、とんでもない売国行為だ」などと書いた。

5. 8月6日当日のうちに、「『韓国人留学生に対し、自らの捏造記事を用いて再び誤った日本の姿を刷り込んでいたとしたら、とんでもない売国行為だ』と文春。つまり貴校にはねつ造を教え込まれ『日本人には何をしても無罪』と思い込んだ韓国人学生がいる可能性があると言う事?」などといった攻撃メールが、同大学に相次いだ。みるみるエスカレートし、「くぎ入りガスボンベ爆弾を仕掛ける」などの脅迫状も届いた。この記事が載る前の7月に北星学園大学に送られた抗議のメールは19件、電話は7件だったが、記事掲載のあった8月には、メールが530件、電話が160件に激増した。

6. さらに植村氏の高校生の娘さんの写真をブログに掲載し、「晒し支持!断固支持!」「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。親父が超絶反日活動で何も稼いだで贅沢三昧で育ったのだろう。自殺するまで追い込むしかない」などと記すものもあった。

7. バッシングが少しずつ社会問題化すると、2014年10月23日付け週刊文春は、「朝日新聞よ、被害者ぶるのはお止めなさい~OB記者脅迫を錦の御旗にする姑息」と題する記事を載せ、その記事の中で櫻井よしこ氏は「社会の怒りを掻き立て、暴力的言辞を惹起しているものがあるとすれば、それは朝日や植村氏の姿勢ではないでしょうか」と述べ、西岡力氏は「脅迫事件とは別に、記者としての捏造の有無を大学は本来きちんと調査する必要がある」と発言。文藝春秋は、植村氏とその家族の受けた被害を知ってもなお、その被害を嘲笑って、さらなるバッシングを扇動した。

8. 2015年2月には、北星学園大学に「6会場で実施される一般入学試験会場とその周辺において、その場にいる教職員及び受験生、関係者を無差別に殺傷する」「『国賊』植村隆の娘である〇〇(実名)を必ず殺す。期限は設けない。何年かかっても殺す。何処へ逃げても殺す。地の果てまで追い詰めて殺す。絶対にコロス」という殺害予告状まで届いた。

9. 北星学園大学は度重なる脅迫などへの対応の為、警備費用として2年間で5千万円近くの負担を余儀なくされた。同大学は植村氏との契約更新を躊躇せざるを得ず、植村氏は大学への影響も踏まえて苦渋の決断をし、韓国のカトリック大学の客員教授に就任することになった。

10. 以上の経緯に照らせば、週刊文春の記事により、植村氏へのバッシングが引き起こされ、植村氏の名誉と生活の平穏が害されたことは明らかだ。植村氏がこの裁判を起こさざるを得なかったのは、被告文藝春秋によって引き起こされた激しいバッシング、中傷、脅迫が、植村氏とその職場、そして愛する娘さんにまで及んだからである。

 


  

週刊文春側の主張

これに対して文春側は、「記事には植村氏への誹謗中傷、脅迫などを扇動したり教唆する記述や表現を含んでいない」として、「害意」を否定し、文春記事と植村バッシングとの因果関係も否定した。文春側の主張は、判決書では以下のようにまとめられている。

注=判決書11~12ページより。原告は植村、被告会社は文藝春秋。

 原告は、 被告会社が文春記事A及びBを掲載した行為につき、 原告から職を奪い、 社会から抹殺しようとする強い「害意」に基づき、原告の「平穏な生活を営む法的利益」を侵害する不法行為が成立する旨主張する。しかし、被告会社は、原告各記事が、新聞記事として求められる中立性、公正性、正確性等の倫理を著しく欠いているのではないかという点を問題視し、その問題を指摘することは、市民が新聞記事及び新聞記者に関する意見を形成するにあたり有益であると判断し、文春記事A及びBの執筆、 掲載に至った。被告会社が文春記事A及びBによって提起した問題は、 公共の利害に関する事実に係るものであり 、 記事の掲載は、公益を図る目的に基づくことは明らかである。また、被告会社は、原告とは何らの個人的関係はなく、原告に対する「害意」を有していないことは自明である。

 そして、文春記事A及びBの掲載の前提となる取材行為は、報道機関として必要かつ相当な範囲にとどまっており、記事の内容そのものも、読者に対し、原告への誹謗中傷、脅迫等を扇動ないし教唆したりする記述や表現を含んでいない。

 そもそも、被告会社による文春記事A及びBの掲載と、 第三者による原告に対する誹謗中傷、脅迫等の行為との間に因果関係はない。

 したがって、 いずれにせよ、 被告会社が 文春記事A及びBの執筆、 掲載により、 原告の「平穏な生活を営む法的利益」の侵害に対する不法行為責任を負うことはない。