東京訴訟 訴状        

2015(平成27)年1月9日 東京地方裁判所に提出

原告 植村隆

 

原告訴訟代理人弁護士

 中山武敏、黒岩哲彦、海渡雄一、角田由紀子、中川重徳、泉澤章、穂積剛、神原元、梓澤和幸、小林節、宇都宮健児、永田亮、吉村功志 ほか

 

被告 西岡力、文藝春秋

 

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第1 請求の趣旨

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1 被告西岡力は、別紙URL目録記載のウェブサイトに掲載された記事中、別紙記載目録載の記載を削除せよ。

2 被告らは、株式会社文藝春秋の発行する「週刊文春」に別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を、別紙要綱目録記載の要綱に従い、1回掲載せよ。

3 被告らは、原告に対し、連帯して、金550万円及びこれに対する2014年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 被告西岡力は、原告に対し、金550万円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5 被告株式会社文藝春秋は、原告に対し、金550万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。                                   

6 訴訟費用は、被告らの負担とする

との判決及び仮執行の宣言を求める。

 

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第2 請求の原因

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1 はじめに

本件は、元朝日新聞記者である原告が、被告らによって、原告が1991年に執筆した所謂「従軍慰安婦」に関する新聞記事が「握造記事」(意図的なでっち上げ記事)だったといういわれなき誹膀中傷を流布されたという事案である。被告らの誹謗中傷により原告は、ジャーナリストとしての社会的評価と信用を著しく傷つけられ、インターネット上などで人格を否定する激しい攻撃にさらされただけでなく、原告が講師を務める大学には原告の解雇を求めるメールや手紙が多数来るようになり、「あの元朝日(チョウニチ)新聞記者=捏造朝日記者の植村隆を講師として雇っているそうだな。売国奴、国賊の。植村の居場所を突き止めて、なぶり殺しにしてやる。すぐに辞めさせろ。やらないのであれば、天誅として学生を痛めつけてやる」とする脅迫状も送りつけられる等、原告は「言論テロ」とも言うべき激しいバッシングと迫害を受け、雇用をも脅かされて生存の危険に晒されている。さらには、原告の娘についても、顔写真がインターネット上の投稿サイトに無断で公開されたうえ、「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。親父が超絶反日活動で何も稼いだで(ママ)贅沢三昧で育ったのだろう。自殺するまで追い込むしかない」「なんだまるで朝鮮人だな。ハーフだから当たり前か。さすが売国奴の娘にふさわしい朝鮮顔だ」等の書き込みがなされる事態にまでエスカレートしている。かかる状況において、もはや原告の立場を言論の力のみによって保護することは不可能であり、原告とその家族をいわれのない人権侵害から救済し保護するためには、被告らによって流布された「提造記者」という言われなきレッテルを司法手続を通して取り除くほかない。

 本件訴訟は、被告らによる原告に対するいわれなき誹謗中傷と攻撃を打ち消し、原告の名誉を回復することにより、原告とその家族に対する「言論テロ」ともいうべき重大な人権侵害を阻止することを目的とするものである。

 

 2 当事者

 原告は、1982年(昭和57年)に、株式会社朝日新聞社(以下、「朝日新聞社」という。)に入社し、仙台、千葉支局を経て大阪本社社会部員、外報部員、テヘラン支局長、ソウル特派員、外報部デスク、北京特派員などを歴任し、北海道支社報道センター記者、函館支局長を務めた者である。 2014年3月末、55歳で朝日新聞社を早期退職した。

 原告は、大阪社会部に所属していた1991年(平成3年)8月と12月、所謂従軍慰安婦として韓国で最初に名乗り出た金学順(キム・ハクスン)についての署名入り記事を書き、これが、本件被告らによる誹謗中傷の対象となっている。また、原告は、外報部次長時代に取材班デスクをつとめた長期連載「テロリストの軌跡 アタを追う」などが2002年度新聞協会賞を受賞。取材メンバーだった長期連載「新聞と戦争」が2008年度石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞している。 2010年(平成22年)4月に51歳で、母校である早稲田大学の大学院アジア太平洋研究科博士後期課程に社会人入学した。

2012年(平成24年)4月には札幌市の北星学園大学(以下、「北星」という。)の非常勤講師に就任し、2013年(平成25年)12月には朝日新聞函館支局の支局長を務める一方、公募で神戸松蔭女子学院大学(以下、「松蔭」という。)のメディア部門の専任教授に選ばれた。2014年(平成26年)3月、朝日新聞を早期退職し同年4月より松蔭で教授に就任予定であったが、被告らの発言を原因とするバッシングにより雇用契約を解消することを余儀なくされた。現在は、北星で非常勤講師として、国際交流科目の講義を担当している。

 被告西岡力(以下、「被告西岡」という。)は、現代コリア研究所の発行誌『現代コリア』の編集長を2002年(平成14年)まで務め、現在は、東京基督教大学神学部国際キリスト教福祉学科教授、同学部同学科国際キリスト教学専攻長である。被告西岡は、1992年(平成4年)から現在に至るまで、原告が金学順について書いた上記新聞記事に対する批判を繰り返し、とりわけ1998年(平成10年)以降は、原告の記事について「捏造」という言葉を使って原告の記事を執拗に攻撃している。

 被告株式会社文藝春秋(以下「被告文藝春秋」という。)は、出版などを業とする株式会社であり、週刊誌「週刊文春」を発行している。一般社団法人日本雑誌協会によれば、同誌の2014年(平成26年)7月から9月の平均発行部数は70万部余りであり、国内週刊誌の中では最大の部数である。

 

 3 原告執筆の新聞記事(記事A及びB)

1)1991年8月11日付記事 (略)

2)12月25日付記事 (略)

 

 4 被告西岡力(以下、被告西岡という)の不法行為

1)被告西岡は、上記原告執筆の記事に関して、以下の書籍、雑誌記事及び発言を発表し、それぞれ下記の記述がある。

ア 「増補新版 よくわかる慰安婦問題」(西岡論文A)(2012年12月14日第1刷発行、草思社)

「植村記者は義理の母親らの裁判を有利にする捏造記事を書いたことになるのではないか」(39頁)

「この記事を書いたのが、遺族会幹部を義理の母とする植村隆記者だった。名乗り出たところの関係者が義母だったわけで、義理の母親が義理の息子に便宜をはかったということだった」(43頁)

「植村記者は金学順さんを、吉田清治証言のような強制連行の被害者として日本に紹介したのだ」(44頁)

 植村記者がキーセンへの身売りを知らなかったなどあり得ない。わかっていながら都合が悪いので意図的に書かなかったとしか言いようがない。記事に書くと、権力による強制連行という朝日新聞などが報道の前提にしていた虚構が崩れてしまうことを恐れていたと疑われても反論の余地はないだろう」(46頁)

「植村記者の捏造は自分が特ダネを取るためにウソをついただけではなくて、義理のお母さんの起こした裁判を有利にするために、紙面を使って意図的なウソを書いたということだから、悪質の度合いも二倍だと思う。彼らの意図的捏造により日韓関係が、そして最近では日米関係までもがいかに悪くなったか。その責任は重大だ。」(47頁)

「私はこの植村記者の悪質な握造報道について」(同)

イ 歴史事実委員会のウェブサイトへの投稿

http://www.ianf.net/opinion/nisioka.htm1(西岡論文B)

「最初の朝日新聞のスクープは、金学順さんが韓国で記者会見する三日前です。なぜ、こんなことができたかというと、植村記者は金学順さんも加わっている訴訟の原告組織『太平洋戦争犠牲者遺族会』のリーダー的存在である梁順任常任理事の娘の夫なのです。つまり、原告のリーダーが義理の母であったために、金学順さんの単独インタビューがとれたというカラクリです」

「いま、テレビ番組『あるある大事典?』の捏造が問題になっていますが、朝日新聞の最初の報道はただ部数を伸ばすためだけでなく、記者が自分の義母の裁判を有利にするために、意図的に『キーセンに身売りした』という事実を報じなかったという大犯罪なのです」

ウ 「正論」2014年10月号掲載論文(西岡論文C)

「植村記者は意図的な事実の捏造を行い、義母らが起こした裁判に有利になるように世論を誤導した」(79頁上段)

「初めて名乗り出た元慰安婦の女性の経歴について『「女子挺身隊」の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた』と書いたのだ。本人が語っていない経歴を勝手に作って記事に書く、これこそ捏造ではないか」(80頁)

「植村記者は義父を登場させると実の母にキーセンとして売られたという事実が明らかになるので、正体不明の『地区の仕事をしている人』を出してきて、その人物にだまされたと書いたとしか思えない。・これも捏造だ」(81頁下段)

「彼の捏造記事によって結果として義母らの起こした裁判に有利な誤解が内外に広まった」(82頁上段)

「利害関係者だからこそ取れた特ダネであるからその禁を破って記事を書かせるとしても、事実関係の捏造は通常の場合以上に絶対にしてはならないことだ」(同)

エ 「中央公論」2014年10月号掲載論文(西岡論文D) 

「記事のなかで植村氏は、はっきりと強制連行の被害者として金氏を紹介している。しかし、金氏白身は『女子挺身隊として連行された』などとは一度も言っていないのである。これは悪質な捏造ではないか」(105頁下段~106頁上段)

「しかも金氏がキーセンとして売られたことも書いていない。あえて『キーセン』のことを書かないことで、強制連行をより強調したかったのか。誤報というよりも、あきらかに捏造である。」(106頁上段)

「金氏が、『だまされて慰安婦にされた』と話していることを、あえて主語を入れずにそのまま書いていることだ。いったい、誰にだまされたのか。肝心な事実をあいまいにすることで、読む側に『強制連行』を匂わせるような記事に仕立てた』(同頁中段)

「植村記者は結果的に、自分の義母らが起こした裁判が有利になる捏造記事を書いたことになる」(同頁下段)

オ 「週刊文春」2014年2月6日号掲載「慰安婦握造朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」と題した記事中の発言(「西岡発言」)

 「植村記者の記事には、『挺身隊の名で戦場に連行され』とありますが、挺身隊とは軍需工場などに勤労動員する組織で慰安婦とは全く関係がありません。しかも、このとき名乗り出た女性は親に身売りされて慰安婦になったと訴状に書き、韓国紙の取材にもそう答えている。植村氏はそうした事実に触れずに強制連行があったかのように記事を書いており、捏造記事と言っても過言ではありません」

(2)西岡各論文及び西岡発言が不法行為に該当すること

ア 名誉毀損による不法行為等 ()

イ 西岡論文Aについて  ()

ウ 西岡論文Bについて  ()

エ 西岡論文Cについて  ()

オ 西岡論文Dについて  ()

力 西岡発言について   ()

 

 5 被告株式会社文藝春秋(以下、被告文藝春秋という。)の不法行為

1)被告文藝春秋は、「週刊文春」2月6日号及び同8月14日・21日号(発行部数約70万部、定価380円)に原告に関する記事を掲載している。問題となるのは、以下の記述である。

ア 「週刊文春」2月6日号掲載「慰安婦裡造朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」と題した記事(以下、「文春記事A」という。)のうち、以下の部分

慰安婦捏造朝日新聞記者」とするタイトル(文春記事A記載

「植村記者の記事には、『挺身隊の名で戦場に連行され』とありますが、挺身隊とは軍需工場などに勤労動員する組織で慰安婦とは全く関係がありません。しかも、このとき名乗り出た女性は親に身売りされて慰安婦になったと訴状に書き、韓国紙の取材にもそう答えている。植村氏はそうした事実に触れずに強制連行があったかのように記事を書いており、捏造記事と言っても過言ではありません。」(文春記事A記載

「ちなみに植村記者の妻は韓国人で、その母親は慰安婦支援団体の幹部を務めていた人物だ。」(文春記事A記載)。

「総括すべきなのは、最初に署名入りで報じた植村記者も同じだ。だが、なんと今年三月で朝日新聞を早期退社し、四月から神戸を代表するお嬢様女子大、神戸松蔭女子学院大学の教授になるのだという。」(文春記事A記載

「本人は『ライフワークである日韓関係や慰安婦問題に取り組みたい』と言っているようです」(文春記事A記載

イ 「週刊文春」8月14日・21日号「慰安婦火付け役朝日新聞記者はお嬢様女子大クビで北の大地へ」と題する記事(文春記事B)の以下の部分

 「韓国人留学生に対し、自らの捏造記事を用いて再び誤った日本の姿を刷り込んでいたとしたら、とんでもない売国行為だ」

2)文春記事A記載①②③及び文春記事Bが不法行為であること

ア 文春記事A記載①②③について (略)

イ 文春記事Bについて  (略)

(3)文春記事A記載④⑤がプライバシー侵害、威力業務妨害であること  ()

 

6 被告らの共同不法行為

 被告文藝春秋が「週刊文春」2月6日号に「慰安婦捏造朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」と題した記事を掲載した行為(文春記事A記載)と、被告西岡がその記事の中で発言した行為(西岡発言)とは、共同不法行為となる。

 

 7 原告の損害

(1)文春記事Aに関する損害慰謝料  500万円  ()

(2)文春記事Bに関する損害慰謝料  500万円  ()

(3)被告西岡の不法行為による損害慰謝料 500万円  ()

(4)弁護士費用  金150万円  ()

(5)上記合計  金1650万円

 

8 謝罪広告の必要性  ()

 

9 抹消の請求 ()

 

10 結論

 よって、原告は、被告に対し、人格権に基づく妨害排除請求権または民法723条類推適用として、請求の趣旨第1記載の抹消請求並びに、不法行為に基づく名誉回復措置(民法723条)として請求の趣旨第2記載の謝罪広告、及び、損害賠償請求権として請求の趣旨第3乃至5記載の金員及びこれに対する遅延損害金の支払いを求め、本訴に及んだ次第である。

 

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第3 関連事実~本件に至る経緯

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1 慰安婦問題の発覚  ()

2 原告による慰安婦報道記事の発表   ()

3 被告西岡力による執拗な原告攻撃   ()

4 被告文藝春秋による原告攻撃と「言論テロ」の始まり   ()

5 被告西岡のさらなる原告攻撃   ()

6 まとめ()

以下省略