捏造ではない――その根拠 陳述書・意見書   

 

学者、研究者が提出した重要証拠

元慰安婦の補償問題に関わった学者や、慰安婦報道の歴史を検証した研究者らが、調査研究をもとに書いた書面を裁判所に提出した。いずれも植村氏の記事の正当性を証明する重要な証拠である。

 

和田春樹氏意見書 2019年9月17日付 札幌高裁に提出

和田氏は東大の社会科学研究所教授だった1995年、政府が設立した「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)の呼びかけ人となり、以後、2007年に同基金が解散するまで、運営審議会委員長、専務理事、事務局長などの要職をつとめ、「償い事業」の推進に力を尽くした。意見書は、「慰安婦の定義」と「慰安婦を挺身隊とよぶ呼称」について詳細に説明している。とくに中国、朝鮮、フィリピン、インドネシアにおける慰安婦の被害実態と、挺身隊の呼称が韓国内で伝説化した事情の説明が詳しい。アジア女性基金の調査活動や交渉の過程で生じた疑問や批判も、標題とのかかわりで書かれ、櫻井氏が2007年に米国紙に出した意見広告に「衝撃をうけた」ことも明かしている。札幌地裁判決が、慰安婦を「公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性」にすぎないとしたことについては、「当惑する気持ちを禁じえなかった」と書いている。意見書の終わりは、「朝日新聞の報道への攻撃は、金学順ハルモニの登場という意味を消し去ろうという愚かな試み、企てであり、多少のミスが仮にあったとしても、朝日新聞にも植村記者にも非難されるべきことは全くないと私は思います」との自身の発言で結ばれている。

 

能川元一氏陳述書 2018年7月30日付 東京地裁、札幌高裁に提出

能川氏は言語哲学を専門とする研究者。保守系メディアにおける歴史認識などの言説を研究対象とし、慰安婦問題についても著作活動とSNS発信で積極的に取り組んでいる。陳述書は、「慰安婦問題および植村隆さんとのかかわり」「慰安婦問題の歴史について」「西岡力さんの主張について」の3章から成り、とくに朝日新聞バッシングを生んだ日本社会の動きを政治的文脈の中で分析し、植村記事の捏造決めつけは慰安婦問題の誤った理解を背景とし、また、挺身隊と国家総動員法とがただちに結びつくものではないことを強調している。また、西岡氏の主張については、①歴史学の知見に照らして誤り、②当時の朝日新聞の報道のあり方に照らして誤り、③慰安婦問題に取り組んだ人々の意図の推定において誤り、と述べ、「反日」という学術的とはいえないレッテルを十分な合理性もなく用いてきたことも研究者として誠実な態度とは言えない、と批判している。

 

吉方べき氏意見書 2017年11月15日付、札幌地裁に提出

吉方氏は筆名。韓国ソウル大学の研究室に所属する言語心理学者。韓国の全国紙5紙の記事を中心に、新聞、雑誌、書籍など数千本の記事で慰安婦問題はどのように伝えられてきたかを調査・分析し、韓国社会では1960年代にすでに挺身隊と慰安婦の同一視が定着していたことを立証している。また、植村記事については、当時一般的だった「慰安婦」についての解説をなぞった類型的記述に過ぎなかったとし、朝日新聞の報道により韓国で慰安婦問題が引き起こされたとする西岡、櫻井氏らの批判は「問題の本質から完全に逸脱した、単なる個人攻撃にしか映らない」と結論づけている。吉方氏は慰安婦問題について早くから積極的に発言をしている。「週刊金曜日」2015年4月10号には「朝日捏造説は捏造だった――韓国での慰安婦報道検証で判明」を寄稿している。2016年3月の朝日新聞のインタビューでは、挺身隊と慰安婦の混同の社会的背景を説明した上で、1984年3月に戦後もタイに残って暮らして居た元慰安婦の蘆寿福さんの名乗り出が韓国社会に強い印象を与え、慰安婦問題の対処を求める動きが活性化した、と語っている。

 

水野孝昭氏論文 2019年1月10日、札幌高裁に提出

水野氏はジャーナリスト出身の研究者で現在、神田外語大教授(国際コミュニケーション論、メディア論)。この論文は、2017年度アジア政経学会秋季大会に発表された。戦後の日本社会で「慰安婦」がいつから問題として認識され、どのように浮上してきたのか、を国内の新聞記事のほか、雑誌、小説などにも対象を広げ、金学順さんの名乗り出までの日本のメディア状況を検証している。周辺取材や関係者の聞き取りから得た次のようなエピソードも紹介されている。

▽金学順さんに名乗り出の決心を促したのは、当時、失業対策事業でともに働いていた女性被爆者だった。彼女は、日本政府が在韓被爆者に対して「補償」ではなく「人道支援」として40億円を支出する決定をしたことを「被爆者の切り捨てだ」と抗議し、ソウルの日本大使館前で服毒自殺を試みた人だった。その怒りは金学順さんにも伝わっていたのだろう。▽植村氏の記事は、プライバシー保護のため本人取材はしないという条件つきだったこともあり、金学順さんの名前は匿名とされた。そのため、せっかくの特ダネもインパクトを欠き、韓国紙にはいっさい転電されず、韓国では金さんの記者会見まで報じられることもなかった。▽北海道新聞の喜多義憲記者の金学順さん単独インタビューは新聞協会賞の候補として最終選考まで残ったが、続報に他紙を圧倒するものがなかった、との理由で受賞を逃した。

 

原寿雄氏陳述書 2015年12月11日付 東京、札幌両地裁に提出

原氏は元共同通信社編集主幹・社長をつとめた日本を代表するジャーナリスト(2017年11月死去)。日本の新聞界での代表的な「捏造」事例(朝日新聞「伊藤律会見」、長崎民友新聞「日航機三原山墜落」、共同通信「セイロン皆既日食」)をあげた上で、記者個人を「捏造」と決めつけることは全人格を否定する最大最高級の侮蔑であり、致命的な名誉棄損である、と述べている。