誤りだらけの「捏造」決めつけ■櫻井言説の誤り
際立つ「悪質性」を問う
櫻井氏の名誉毀損は、「捏造」という表現が最大級の侮辱であることにとどまらず、その時期、方法、目的においても、悪質性は際立ち、類のないほどものであった。弁護団が第6回口頭弁論に提出した第9準備書面は、「被告櫻井による名誉毀損の悪質性」と題する章で、「悪質」な行為を列記し、「このような被告櫻井には、抗弁を主張することの適格性すらないというべきである」と断じている。櫻井氏の言動は、弁解の余地がないほどにひどく、たちの悪いものだ、ということである。
以下に、同書面から「第1」「第2」を収録する。
第9準備書面の全文はこちら
第9準備書面(札幌地裁2017年2月10日提出)
第1 本準備書面の趣旨
今回の準備書面では、被告櫻井による本件各名誉毀損表現が,判例上打ち立てられた抗弁の前提を欠くほど悪質性を帯びたものであることを踏まえた上で、被告らの抗弁に対する反論を行っている。
なお、被告櫻井の記述内容をそのまま掲載した被告株式会社新潮社ほか3社についても、被告櫻井が負うのと同様の責任を原告に対して負うことは当然である。
第2 被告櫻井による名誉毀損の悪質性
I 被告櫻井の記述は取材に基づく事実記述とは対極のものであり、原告に対する悪質な攻撃(バッシング)であること
被告櫻井は、原告に対する悪質な攻撃(バッシング)の手段として、原告の記事の用語と内容を敢えて捻じ曲げて記述することで「捏造」「虚偽報道」と断定している。
被告櫻井は、原告の記事Aを「捏造」であると言うために、敢えて記事の核心部分である元従軍慰安婦であった女性が自ら体験した性暴力被害を語つた点に一切触れていない。このような被害実態に触れると、被告櫻井の「信念」たる「強制連行はなかった。」ということが事実でないことが明確になるからである。
以上のような被告櫻井の記述の目的、態度は、被告櫻井が、本件各記述を行うに際し、丁寧な直接の取材を経て、事実に基づき記述するというジャーナリストとしての基本的な手順を踏んでいないことに端的に示されている。
このような被告櫻井には、抗弁を主張することの適格性すらないというべきである。
Ⅱ 被告櫻井による名誉毀損行為が極めて違法で悪質であること
本件の特質は、被告櫻井の本件各名誉毀損行為が
① 我が国の言論界等において多大な影響力を有するジャーナリストたる被告櫻井によって、
② 事実を報道するにあたって当然行うべき正当な取材及び調査行為を行うことなく、
③ 23年近く前の記事を取り上げた上、その執筆者である原告に対するバッシングが最も功を奏する時期を選択して、原告のみをターゲットにして短期集中的に攻撃し、
④ 他方で同時期に同様の記事を発行した他紙には何ら言及せず、
⑤「従軍慰安婦」問題というセンシティブな人道上の国際問題に関する記事を原告が「捏造」したなどという極めて違法かつ悪質な言説を用い、
⑥ その結果、原告の名誉を多方向から失墜させた、
というものである。
被告櫻井は、原告の記事Aを「捏造」とか、原告を「捏造」記者などと悪意をもって断定しているとともに、原告が記事Aを執筆した動機を義母の日本政府に対する訴訟を支援するためだとまで言い切り、誤ったレッテルを張り続けることで、原告のジャーナリストとしての名誉はもちろん、「売国奴」「国賊」とまで貶められたという点て日本人として生きることに関する名誉をも失墜させた。
被告櫻井の言説が流布された結果、原告やその家族も含めて、「売国奴」「国賊」「この一族、血を絶やすべき」「植村の居場所を突き止めて、なぶり殺しにしてやる」などの書き込み、脅迫や名誉毀損行為が拡散している。
それだけにとどまらず、被告櫻井は、原告の従軍慰安婦に関する記事が「捏造」であり、原告がそれを訂正も説明もしないまま、北星学園大学で教員に従事し続けていることを、「改めて疑問に思う。こんな人物に、はたして学生に教える資格があるのか、と。一体、誰がこんな人物の授業を受けたいだろうか。」と述べ、大学教員である教育者としての名誉をも失墜させている。
ところで、被告櫻井は、約23年も前に執筆された記事A及びBを取り上げ、本件名誉毀損行為を2014(平成26)年4月から10月にかけて集中的に行っている。
この年は、8月5日に株式会社朝日新聞社による「従軍慰安婦」問題の検証記事が発表され、12月22日には同社に関する第三者委員会による報告書が発表された年である。
また、被告櫻井は、原告の記事A及びBを執拗に「捏造」記事であると主張する反面、これらの記事と同様内容の記事を掲載した国内他紙に対するバッシングは一切行っていない。
つまり、被告櫻井は、原告のみを目の敵とし、同人に対するバッシングが最も功を奏するタイミングを見計らってで本件各名誉毀損行為を行っていたのである。
加えて、被告櫻井は、薬害エイズ名誉棄損訴訟にて被告の立場に立っており、名誉毀損行為の違法性阻却事由たる真実性や真実相当性の立証のためには、正当な取材行為が必要かつ重要であることを当然認識していた。にもかかわらず、本件各名誉毀損表現を行うにあたり、その前提としての初歩的かつ基本的な責務である取材行為を全くといって良いほど行っていない。
このように見ると、被告櫻井による本件各名誉毀損行為の違法性・悪質性は顕著であり、他の同種事案に比して際立っている。
被告櫻井が、慰安婦の「強制連行はなかった」という自らの信念を流布する手段として、原告の記事A、記事Bを「捏造」記事とし、原告をターゲットにして悪質な攻撃(バッシング)に終始したというのが、本件名誉毀損行為の本質である。
凡例▼人名、企業・組織・団体名はすべて原文の通り実名としている▼敬称は一部で省略した▼PDF文書で個人の住所、年齢がわかる個所はマスキング処理をした▼引用文書の書式は編集の都合上、変更してある▼年号は西暦、数字は洋数字を原則としている▼重要な記事はPARTをまたいであえて重複収録している▼引用文書以外の記事は「植村裁判を支える市民の会ブログ」を基にしている
updated: 2021年8月25日
updated: 2021年10月18日