東京地裁、DHCに賠償命令判決

辛淑玉さんの名誉棄損訴訟で

 

判決は、辛淑玉さんに加えられた事実無根の荒唐無稽な誹謗中傷には、「真実性がなく、真実相当性もない」として、被告DHCに賠償を命じた。賠償額は請求額の2分の1ではあるが550万円という高額は画期的である。植村隆さんへの「捏造」バッシングも同じように事実無根の荒唐無稽な誹謗中傷であった。当事者への取材がなかったことも共通している。しかし裁判所は、「一部に真実性があり、真実相当性もある」として、被告櫻井よしこ、西岡力氏らを免責した。名誉毀損の内容の悪質さにおいてほぼ同等な事案に、ほぼ真逆な判断が下された。DHCに賠償を命じたこの判決の意義は認めるが、これとは真逆の判決も堂々とまかり通る日本の司法の不条理な現実に憤りを禁じ得ない。

この判決の「第3 当裁判所の判断」(p22~p50)の内、「争点(1)(被告DHCによる不法行為の成否について)」(p22~p34)は、DHCの名誉毀損(摘示事実)には真実性がなく、真実と信じる相当性もないとの判断理由を詳しく述べている。以下に、その部分(p22~p34)を収録する(原文のママ、書式は変えてある)。  

なお、争点2(被告長谷川による不法行為の成否)、争点3(原告の損害及びその額)、争点4(本件各番組の差止め及び削除の可否)、争点5(被告DHC及び被告長谷川による謝罪広告の必要性)、争点6(原告による被告長谷川に対する不法行為の成否)、争点7(被告長谷川の損害及びその額)についての各判断は、略した。  ➡判決全文

 

編注:DHCの名誉棄損行為は、「沖縄の基地反対運動は暴力行為を繰り返す過激な運動であり、その運動を辛淑玉が煽り、経済的支援を行っている」という内容のもの。「本件番組1」は沖縄県国頭郡東村高江地区における米軍基地のヘリパッド建設反対運動をテーマとしたもの。2017年1月2日午後10時から東京メトロポリタンテレビで放送。「本件番組2」は番組1の放送後にSNSなどで多くの批判的な投稿がされていることを取り上げた内容となっている。同月9日午後10時から同局で放送。被告長谷川は、同番組を司会した東京新聞論説副主幹(当時)長谷川幸洋氏。辛さんは同氏をも訴えていたが、損害賠償請求は棄却された。

 


第3 当裁判所の判断 (判決書p22-50)

1争点(1)(被告DHCによる不法行為の成否)について  (判決書p22-34)

(1)本件各番組の摘示事実 (判決書p22-28)

ア 本件においては,地上波においてテレビジョン放送をされた番組によって摘示された事実の内容が問題となるところ,テレビジョン放送をされた番組によって摘示された事実がどめようなものであるかという点については,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である。そして,テレビジョン放送をされる番組においては,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,同一の番組を録画等により見返すなどしない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり。再確認したりすることができないものであることからすると,当該番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,両面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断すべきである(最高裁平成14年(受)第846号同15年10月16日第一小法廷判決・民集57巻9号1075頁参煕)。

 以下,これに基づき本件各番組の摘示事実について検討する。

イ 本件番組1について

(ア)上記前提事実(2)イによれば,本件番組1の内容は,次のようなものであった。

 本件番組1の開始後02:37経過都分(以下,分秒の表示は本件番組1開始からの経過時間を指す。)から03:48までの都分は,取材VT「の冒頭で,現地取材を行った井上が「高江ヘリパッドの建設現場で過激な反対運動が行われている」などと話したうえで,さっそく遭遇した基地反対派のデモ活動を行っている集団と緊張関係が生まれ,取材を継続することで集団を剌徴し,襲撃されることを危惧していったんその場から撤退したとの内容のものであり,一般の視聴者に対し,高江ヘリパッドの建設現場で過激な反対運動が行われているとの事実を強く印象付けるものといえる。

 さらに,05:65から08:11の場面では,「当日高江ヘリパッド移設現場は過激デモで危険な為ロケ中止の要請が」「反対派の暴力行為により,地元の住民でさえ高江に近書れない」「警察でも手に負えない高江へリパツド反対デモ運動」,「公道に違法駐車して道路を封鎖する反対派の活動家」,「過激派が教急車も止めた?」,「防衛局,機動隊員の人が暴力を振るわれている」との内容の発言やナレーション,テロップに加え,地元住民へのインタビューの場面では住民や井上が反対派を指してテロリストのようである旨を述べる部分や同旨のテロップが表示され,さらに,「なぜ,後先考えず犯罪行為を繰り返ずのか。」とのナレーション及びテロップが加えられている。「テロリスト」とは,テロリズムすなわち政治目的のために暴力あるいはその脅戚に訴える傾向又はその行為を奉ずる者をいい,一般の視聴者においてもテロリストとは過激な暴力的行為を行う者であると認識するものと考えられるから,上記の番組部分は,一般の視聴者に対して,高江ヘリパッドの建設現場で過激な反対運動が行われているとの事実をさらに印象付け,その活動内容はテロリストが行うような過激な暴力行為を伴うものであり,そのような犯罪行為が繰り返されているとの印象を与えるものといえる。

(イ) その後,08:11から09:16の場面では,「なぜ犯罪行為を犯すのだろうか?」とのナレーション及びテロップ,その直後に「その裏には信じられないからくりがあった。」とのナレーション及びテロップが表示されるなどし,さらに,東京で配られていた「ホットケナイ,高江。ないちゃ~大作戦!全員集合2016年9月9日」と記載されたチラシ(乙3と同内容のもの。以下「本件チラシ」という。)には5万円を支給する旨の記載があること,普天間基地の周辺において「2万円」と書かれた封筒が発見されたことなどを紹介した上,「反対派デモの人達は何らかの組織に雇われているのか。」とのナレーションとともに,「反対派は日当を貰っている!?」,「反対派の人建は雇われている!?」とのテロップが表示されるなどしており,上記の場面は,上記(ア)の場面と併せると,一般の視聴者に対して,高江ヘリパッド建設現場において行われている暴力を含む犯罪行為を伴う過激な運動に従事している者は何らかの組織によって麗われて活励に参加している可能性があるとの印象を与えるものといえる。

(ウ) そして,スタジオに戻った10:38からの場面においては,14:35以降,過激な反対運動をしている者の中に沖縄の地元の人がどの程度含まれているのだろうかとの話の流れにおいて,須田が,「そういう意味では,井上さんがさっき取材してくれた,この情報っていうのは貴重だなと思ったのは,『のりこえねっと』の辛さんの名前が書かれたパンフレットがあったじやないですか。」「この方々っていうのはもともとは,反原発,そしてそれに続いて反ヘイトスピーチ,そしてもう職業的にずーっとやってきて,今沖縄行っていると。」と述べ,その際,画面上には,「『のりこえねっと』“辛淑玉“は何者?」「反原発,反ヘイトスピーチ,基地廸毅反対など・・・職業的に行っている?」とのテロップが表示され,他の出演者がVTR内で紹介したチラシ(本件チラシ)に記載されていた「5万円」の財源を問い,井上がそれについては本当に分からないなどと答えるやりとりをしていた際に,画面上には「沖縄・高江ヘリパッド問題」「反対運動を煽動する黒幕の正体は?」とのテロップが表示され,その後CMや他の話題場面を挟んだ後,本件チラシに記載の「5万円」の問題につき,被告長谷川が,「でも,ちょっと聞きたいのは,お金ですよ。5万円日当出すなんて。これは誰が出しているの。」などと問うと,井上において「これ,本当にわからないんですよ。だからね,これ「のりこえねっと」というところに。まあこれ書いてあって。で,連合会館で,お茶の水でやっているわけですよね,これ。お茶の水でやっているの。だから,東京から,そういう反対派の人たち,さあ一緒にみんなおいでよ5万円あげるからと。いうことで,まあ格安の,格安のチケットで行けば,そりゃ行けますよね。」との発言が,須田において,「この辛さんっていうのは,あれなんですよ。在日韓国・朝鮮人の差別ということに関して戦ってきた中では,カリスマなんですよ。もうピカイチなんですよ。お金がガンガンガンガン集まってくるっていう状況があるんですね。」との発言があり,須田の当該発言の際には画面上に「『のりこえねっと』”辛淑玉“は差別と戦うスペシャリスト」とのテロップが表示されている。

上記の場面は,それ以前の場面が,上記()()のとおり,一般の視聴者に対して,高江ヘリパッド建設現場において行われている暴力を含む犯舞行為を伴う過激な運励に従事している者は何らかの組織によって雇われて活動に参加している可能性があるとの印象を与えるものであることを併せ考慮すると,「のりこえねっと」という組織が上記の過漱な運動の参加者を雇ってこれを煽動しているとの印象を与えるものと認められる。そして,本件番組1は,上記の場面において,須田の「『のりこえねっと』の辛さん」という同組織名と原告名を同格の「の」で連結した発言をそのまま放映したり,番組テロップで「『「のりこえねっと」“辛淑玉”と同組織名と原告名を直結させた表示をしたりしていることからすると,一般の視聴者に対して,「のりこえねっと」とは原告と実質的に一体化した組織であって,両者の人格が融合し,「のりこえねつと」とは原告のことであるとの印象を与えた上で,原告には集金力があり,原告が集金した金銭が反対運動を行う者に支払われる8万円の原資となっているとの印象を与えるものということができる。

さらに,「反対運動を煽動する黒幕」という表現は,反対運動の前面には姿を現わさずに,裏側から反対運動をそそのかし操作している人物という印象を一般の視聴者に与えるものであって,一般の視聴者としては,原告が反対連動において暴力や犯罪行為が行われることを当然に黙認・認容しているとの印象を受けるものと解される。

() 以上によれぱ,本件番組1の摘示事実は,原告が,暴力や犯罪行為も厭わない者たちによる反対運動に関し,同反対運動において暴力や犯罪行為がされることを認識・認容した上で,経済的支援を含め,これを煽っているという事実を摘示するものであると認められる。

() これに対し,被告らは,本件番組1は原告との関係で何らの事実を摘示するものではないなどと主張するが,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準とすれば,本件番組1は原告につき上記()のとおりの事実を摘示するものと認められるのであり,被告らの主張は理由がない。

ウ 本件番組2について

() 上記前提事実()イによれば,本件番組2においては原告個人を直接に名指しして言及する場面はなく,本件各番組が元々連続性を有する番組として制作・放送されるごとが予定されていたわけではなく,視聴者がこれらを連続して視聴することが想定されているものではないものの,本件各番組は毎週同じ曜日の同一の時間帯にレギュラー放送されていたものであり,同一の番組を定期的に視聴する者は相当数存在すると考えられるところ,本件番組2は,本件番組1の放送の1週間後に放送されたものであって,時間的にも近接していることも考慮すると,本件番組1と本件番組2の視聴者は相当程度重複していると推認される。そして,本件番組2の内容としても,本件番組1がSNS上で批判の対象となっていることを受けて,SNS上の批判内容を採り上げた上で,本件番組1で放送した内容を一部紹介したものであるから,本件番組2の相当数の視聴者は本件番組1の内容と関連付けて本件番組2を視聴すると考えられる。

 そうすると,本件番組2の摘示事実の内容を判断するに当たっては,本件番組1の放送内容ないしその摘示事実を踏まえて行うのが相当である。

() この観点から本件番組2の摘示事実についてみると,同番組においては,全体として,「のりこえねっと」が5万円を支給して高江ヘリパッドの建設反対運動にデモ隊を動員しているとの事実が摘示されているものと認められるところ,上記のとおり,本件番組1においては,上記反対運動は暴力を含む犯罪行為を伴う過激なものであり,「のりこえねっと」と一体化した原告がその参加者を雇ってその運動を煽動していること,原告には集金力があり,同人が集めた金銭が上記参加者に対する金銭支払の原資となっていることが摘示されており,本件番組2においてこれらの事実の真実性について疑問を呈するような場面は特段見受けられない。そうすると,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準にした場合,本件番組2における上記の事実摘示部分は,本件番組1と同様に,原告が,暴力や犯罪行為を伴う反対運動に関し,同反対運動において暴力や犯罪行為が行われることを認識・認容した上で,経済的支援を含め,これを煽っているという事実を摘示するものであるということができる。

(ウ) これに加え,本件番組2においては,井上が,公安調査庁発行に係る2015(平成27)年版の「内外情勢の回顧と展望」という冊子の記載の一部を朗読した上で,井上と須田とが,同冊子には,中国が沖縄に存在する米軍基地に対する反対運動に従事する人たちに接触していることが記載されており,公安調査庁という国の機関がそのことを認めている旨のやり取りを行う場面がある。一般の視聴者がこれらのやり取りを見た場合,上記()の摘示事実も併せ考慮すると,反対運動を煽動している原告は、公安調査庁が注視するような危験な存在であるとの印象を受けるものということができる。

 

(2)社会的評価の低下の有無について (判決書p28)

本件各番組によって摘示された,原告が,暴力や犯罪行為を厭わない者たちによる反対運励に関し,同反対運動において暴力や犯罪行為が行われるととを認識・認容した上で,経済的支援を含め,これを煽っているとの事実は,原告の社会的評価を低下させるものであることが明らかである。

 

(3)違法性阻却事由等の有無について (判決書p28-34)

ア 摘示事実の公共性,公表の公益目的について

高江のヘリパッド建設現場において暴力を含む犯罪行為を伴う過激な反対運動がされているという事実や,そのような反対運動がどのような冑景事情を有する者によって行われているのかという事実は,我が国の防衛政策と密接な関係を有する在日米軍の基地問題に関するものであり,一般市民が関心を寄せるのが正当であると考えられる事項であると認められる。

したがって、上記の各事実は公共の利害に関する事実であるということができるうえ,その内容に照らし,被告DHCは,これらの事寞を広く視聴者に知らしめるとの公益を図る目的で上記各事実を公表したものと推認することができる。

イ 摘示事実の真実性について

() 被告DHCは,沖縄の高江ヘリパッド建設に関する反対運動が,暴力や犯罪行為も厭わない者たちによる反対運助であることは関係証拠に照らして明らかであり,原告がその実施を承認,推奨している高江の県道を走行する車両を停止させるような行為は往来妨害罪ないし道路交通法違反の犯罪行為に該当するものであること,原告が共同代表を務めるねりこえねっとは,抗議活動中の行為につき傷書罪等で逮捕された山城博治(以下「山城」という。)や高橋直輝こと添田充啓(以下「高橋」という。)の逮捕の不当性を表明し,山城の反対運動の支持を訴えたり,高橋を自らが開催する集会に招へいしたりしていることなどからすると,原告が,反対運鋤において暴力や犯罪行為がされることを認識・認容した上で,経済的支援を含め,これを煽っているごとは真実であると主張する。

() そこで検討するに,上記前提事実及び後掲証拠等によれば,のりこえねっとないし原告の活動内容等に関して以下の事実が認められる。

a 原告は,東京都生まれの在日朝鮮人であり,これまで種々の人権活動を行い,平成25年9月には,市民団体である「ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク」(のりこえねっと)を毅立し,現在に至るまで共同代表としてその遷営に携わっている。

b のりこえねっとは,平成28年9月9日に東京都内で「ホットケナイ,高江。ないちやー大作戦会議!」と題する集会を開催した。(乙3)

c 同集会の開催にあたって配布されたチラシ(本件チラシ)には,「「市民特派員」を沖縄・高江に送ろう」,「往復の飛行機代相当,5万円を支援します。あとは自力でがんばってください!」,「高江にたどり着いて,TwitterやFaeebookなどのSNS,もしくはツイキャスでの中継をお願いします。」,「戻ってから千字程度の報告をお願いします。報告は辛淑玉さんのFacebookか,のりこえねっとのFaeebookなどに掲載させて頂きます。』との記載がされている。(乙3)

d 同集会には原告も参加しており,その際,原告は,「非暴力とは無抵抗ではないんです。知恵を使って戦うということです。」,「向こう行って何しろやってこい,とか言って頑張って撮って来た写真は,これから,実はロディーさんはたくさんの写真を撮る機会を逸しました。なぜならば,現場の人が足りないからです。だから現場で彼ら二人がね,20何台もね,止めた。それでも1日止められるのが,15分。でもあと3人行ったらね,16分止められるかもしれないんです。もう1人行ったら20分止められるかもしれないんです。だから,送りたいんです。」,「私たちは,私もね,はっきり言います,一生懸命これから稼ぎます。」,「なぜならば,私もう,あの,体力ない。あとは,若い子に死んでもらう」,「それからじいさんばあさん達はですね。あの向こうに行ったら,ただ座って止まって何しろ嫌がらせをして,みんな捕まってください。」,「山城博治のそばに人を送ってもらいたいと思います。」などと発言した。(乙9,丙6)

e 同集会においては,高橋が報告者として出演していた。(乙3)

高欄は,平成28年9月24日に高江ヘリパッド建設工事に抗議していた際に防衛省沖縄防衛局職員に対して傷害を負わせたとの容疑で同年10月4日こ逮捕され,その後有罪判決を受けた。(乙29,57の3・4)。`

同月6日、のりこえねっとは、SNSの一種であるfacebook上において,高橋の逮捕に抗議する内容の投稿を行った。(乙29)

f 山城は,平成28年8月25日に高江ヘリパッド建設工事に伴うフェンス設置等に従事していた沖縄防衛局職員に対して傷害を負わせたとの容疑で逮捕され,その後有罪判決を受けた。(乙57の1・2・4)

平成29年2月23日,のりこえねっとは,SNSの一種であるTwitter上において,山城が逮捕されたことに対して「不当遠捕」々あるとの投稿を行った。(乙28)。,

g のりこえねっとは,本件チラシのほか,動画投稿サイ卜のYouTube上でも,「今ここで起きていることを高江に行き日本中に伝えてくれる特派員を募集していますJとの呼び掛けを行った。

上記の募集に応じた特派員に対しては往復の飛行機代相当額とし5万円が支給されているところ,その資金はカンパによって賄われている。カンパは現在までに110万円。が集まり,のりこえねっとはこれを基に16人を高江に特派員として派遣した。(甲15,乙3,原告本人4,7,17頁)

h のりこえねっとによって派遣された特派員の報告書には,工期を遅らせるためにダンプカー隊列阻止運励に参加した旨,座り込みに参加した旨が記載されている。(丙7)

() 原告は、高江の反対運動において、ヘリパッド建設工事に対する抵抗の手段として,道路に座り込んで工事車両の通行を妨害する行為を呼び掛けているところ,その座り込みの形態によっては往来妨害罪等の犯罪行為として間われかねないのであって,その限度ではそのような実力行使の抵抗方法が採られることを認識・認容している側面があることは否定し難い。

また,のりこえねっとが,山城や高橋が高江ヘリパッド建設工事に関連する防衛局職員に対する傷害被疑事件で逮捕されたことに対してSNS上で抗議声明を発したり,平成28年9月9日に行った集会に高橋を推へいし,同集会において,原告が,高江において反対運動をしている山城の元に人を送りたいなどと発言したりしていることからすると,のりこえねっとないし原告において,高江における反対運動に関し,傷害事件を起こした山城や高橋と友好関係にあったことが窺える。

さらに,のりこえねっとが,往復の飛行機代相当額として5万円を支給するとの触れ込みで,反対運動を取材する特派員を募集していたことは上記認定のとおりである。

しかしながら,これらの事実をもってしても,原告が、暴力や犯罪行為も厭わない者たちによる反対運動において暴力や犯罪行為がされることを認容しているとの事実や,経済的支援をするなどして暴力行為が伴うような反対運動を爛っているとの事実を碍めることは困難であり,その他本件全証拠を総合しても,上記各事実を認めるに足りない。上記認定事実によれば,のりこえねっとが金員を支給して高江に特派員を派遣しているのはあくまで嵩江のヘリパッド建設現場における反対遷動の現状を発信してもらうことに主たる目的があるものと認められるうえ,これまでに派遣した特派員の人数は16人にとどまっており,実際に特派員により行われた活動についてみても,特派員の報告(丙7)の中にヘリパッド建設工事の関係者や沖縄防衛局職負らに暴力を振るった旨の記載はないことからしても,上記特派員の派遣及び交通費の支給が反対運動を爛る目的でされたものとは認め難い。また,のりこえねっとや原告が上記特派員以外の反対運動の参加者に対して現金を支給したことを認めるに足りる証拠はなく、本件番組1で探り上げている普天間基地の周辺で発見されたとする「2万円」と書かれた封筒についても,当該現金がのりこえねっとや原告から反対運動の参加者に支給されたことを支える根拠は示されておらず,原告との関連は全く不明であり,原告から反対運動の参加者に支給されたかのような印象付けをしているにすぎない。

加えて,上記集会における,「非暴力とは無抵抗ではないんです。知恵を使って戦うということです。」との原告の発言からは,原告が非暴力による抵抗運動を志向していることが推認される。もっとも,上記のとおり,原告は,高江の反対運動におけるヘリパッド建段工事に対する抵抗の手段として,道路に座り込んで工事車両の通行を妨書する行為を呼び掛けているところ,その座り込みの形態によっては往来妨害罪等の犯罪行為として問われかねないものであって,その限度では,原告がそのような実力行使の抵抗方法が探られることを認識・認容している側面があることは否定し難いが,本件各番組では,「暴力」の内容が道路への座り込みによって行われていることは示されておらず,むしろ,反対運励め参加者に関して,「過激(派)」,「(井上が)襲撃され(る)」,「警察でも手に負えない」,「テロリスト」などの表現を使用して,殊更に危映性の高い暴力が直接身体に加えられる可能性を強調し,それを一般の視聴者に印象付けているものと認められるから、本件各番組の摘示する暴力と原告が上記集会で採り上げた抵抗方法とでは,暴力ないし実力行使の次元が異なり,一般の視聴者が受ける「暴力」に関する印象は全く異なるものである。そうすると,原告の上記発言内容をもって,原告が,暴力や犯罪行為を厭わない者たちによる反対運動に関し,同反対運動において暴力や犯算行為が行われることを認識・認容した上で,経済的支援を含め,これを煽っているとの事実のうちの重要な部分の真実性が証明されているとは到底いえない。

() したがって,被告DHCの上記()の主張は探用することができない。

 

ウ 摘示事実を真実と信ずることの相当性について

被告DHCは,仮に本件各番組における摘示事実が真実と認められないとしても,同被告がこれを真実と信ずるについて相当の理由があると主張する。

この点について,同被告は,いつ,どのような根拠に基づいて上記のとおり信じたのかについて臭体的に主張していないが,本件各番組でのりこえねっとに関して採り上げられた本件チラシの上記記載内容,封筒の記載内容や須田の上記発言内容は、摘示事実を真実と信じる根拠として薄弱であるうえ,同被告はそれらの点を含め摘示事実の真偽を確認するためにのりこえねっとないし原告に対する裏付け取材をしていないのであって(証人一色啓人(以下「一色」という。)34頁,弁論の全趣旨),他に上記イで同被告が指摘している根拠が加えられたとしても,同被告が本件各番組における摘示事実を真実と信じるについて相当の理由があったとはいえない。

 

() 以上の次第であり,被告DHCが本件各番組を制作,放送したことは原告の名誉を毀損するものであり,同被告はこれにつき原告に対する不法行為責任を免れないといわざるを得ない。