植村裁判に関与した裁判官4氏も国民審査対象に

 

最高裁判所裁判官の国民審査が10月31日、衆議院選挙と同時に行われる。今回、審査対象となる11人のうち、植村裁判に関与した裁判官は4人である。下表のように、最高裁で植村裁判に関与した裁判官は第一小法廷で5人、第二小法廷で4人の計9人いるが、小池、池上、木澤の3氏は今夏に定年退官している。山口、菅野の2氏は前回(2017年10月の総選挙時)に審査を受けており、審査の更新は10年後との規定により、今回は対象とならない。したがって、審査を受けるのは深山、三浦、草野、岡村の4氏となる(氏名色字)。

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裁判官氏名

植村裁判に関与した決定

審査機会

小池 裕

第一小法廷で東京訴訟上告棄却

(すでに退官)

池上政幸

同上

(すでに退官)

木澤克之

同上

(すでに退官)

山口 厚

同上

前回

深山卓也

同上

今回

菅野博之

第二小法廷で札幌訴訟上告棄却

前回

三浦 守

同上

今回

草野耕一

同上

今回

岡村和美

同上

今回

 

 

ところで、国民審査はすべての有権者が最高裁裁判官の適否について意思表示ができる唯一の機会である。しかし、有権者に与えられる情報はきわめて少ない。選挙管理員会が発行する「国民審査広報」には全員の学歴と職歴、関与した主要な裁判、裁判官としての心構えが記載されている。しかし、その内容は裁判官自身の自己紹介であり自己PRだから、客観性が高いとは言い難い。関与した主要な裁判について判決内容や理由はほとんど書かれていないのは、不親切きわまりない。もちろん植村裁判の決定については4人とも記述がない。

 

そのような不備を補い、さらに裁判官の適否を判断するための情報を、弁護士と学者グループが公表している。日本民主法律家協会のプロジェクトチームによるリーフレットである。同チームは、選択的夫婦別姓、議員定数不均衡問題などこの3年間に大きな問題となった最高裁の判決・決定への関与ぶりをチェックし、投票で×印をつけるべき裁判官の氏名を明記している。この中で、深山、三浦、岡村の3氏は「夫婦同姓の強制は合憲」としたこと、草野氏を加えた4氏は議員定数問題でも「一票の格差が3倍でも合憲」としたこと、深山氏は大崎事件の再審を認めず、冤罪の救済に背を向けたことを指摘し、「罷免すべき」として×が付けられている。

 

このリーフレットについて、弁護士の澤藤統一郎氏が自身のブログで解説している。難しい法律用語は使わずに国民審査の意義も同時にわかりやすく訴えている文章である。

  

  

「澤藤統一郎の憲法日記」 http://article9.jp/wordpress/?p=17781

 25回国民審査リーフレット発表の記者会見で(20211020日)

 

 弁護士の澤藤です。

 弁護士生活50年、憲法を携えて仕事ができることを誇りにしていますが、必ずしも憲法に忠実ではない裁判所に不満を持ち続けて来ました。ですから、国民審査の際には、厳しい目で審判を、と訴えてきました。

 これまでも、国民審査のたびごとにリーフレットは作成されてきましたが、今回のリーフはよく出来ていると思います。よくできているの意味は、どの裁判官に、どんな理由で「×」をつけるべきかを明示していることです。読む人に親切な内容とも言えると思います。

 国民審査は、個々の裁判官の適不適を審査する制度となっています。しかし、私はむしろ、これを最高裁のあり方を問う制度として活用すべきだと思っています。

 日本国憲法には、美しい理想が掲げられています。その理想を実現する役割を担うのが裁判所であり裁判官です。その頂点に位置する最高裁の裁判官に限って国民審査の対象になります。主権者である私たち国民は、国民審査の機会に最高裁のあり方を可とするか不可とするかの審判を行うことで、最高裁だけでなく、全国の裁判所をより良い方向に変えていくことができます。

 まずは、最高裁はその判決や決定において、憲法に忠実に人権を擁護してきたか。結論から言えば、判決内容に関しては、以下のとおり不十分と言わねばなりません。

選択的夫婦別姓に反対した裁判官(林道晴、深山卓也、三浦守、岡村和美、長嶺安政の各裁判官)に「×」を!
正規・非正規の格差是正に反対した裁判官(林道晴裁判官)に「×」を!
冤罪の救済に背を向けた裁判官(深山卓也裁判官)に「×」を!
一票の格差を放置した裁判官(林道晴、深山卓也、三浦守、草野耕一岡村和美各裁判官)に「×」を!

 最高裁は二面の性格をもっています。その一面は、全国唯一の最上級審として判決や決定を統一する裁判体としての性格ですが、実はもう一つ、司法行政の主体としての性格も併せ持っています。
 
 国民審査においては、最高裁の判決の内容が国民の目からみて、憲法の番人にふさわしいか、というだけでなく、司法行政の主体として憲法が想定している裁判所を構成しているかという視点をもつべきだと思うのです。

 すべての裁判官にとって、その独立こそが生命です。政治権力にも、いかなる社会的な権力や権威にも揺らぐことなく、自らの良心と法にのみに従った裁判をすることによってこそ、法の正義を貫き国民の人権を擁護することが可能となります。

 ところが最高裁で司法行政を司る「司法官僚」はその人事権を梃子に、全国の裁判官を内部的に統制し、この50年にわたって裁判官の独立をないがしろにしてきたと指摘せざるを得ません。判決内容だけでなく、この点についての国民的批判も重大だと考え、その観点から

裁判と裁判官を統制してきた司法官僚(林道晴、安浪亮介各裁判官)に、「」を!
と訴えます。

 なお、このリーフレットの作成には、「日本民主法律家協会」の会員とともに、「23期弁護士有志ネットワーク」の弁護士が参加しました。23期弁護士は、50年前の1971年4月「司法の嵐」と言われた時代に、弁護士となりました。当時、石田和外最高裁長官(退官後、「英霊にこたえる会」の初代会長)を典型とする司法官僚と鋭く対峙してきました。そのテーマは、裁判官の思想・良心の自由であり、裁判官と司法の独立をめぐってのものでした。

 憲法や司法の独立を大切にする法律家としての立場から、国民の皆様に、最高裁裁判官国民審査を大切な機会として生かしていただくよう訴えます。

 以上の件に関して、詳しくは、下記URLをご参照ください。

国民審査リーフレット
https://www.jdla.jp/shinsa/images/kokuminshinsa21_6.pdf

25回最高裁国民審査に当たっての声明
https://www.jdla.jp/shiryou/seimei/211020.html